Episode4 なんでこうなるんだよ (S-side)
なんでなんだ?
昨日まで俺と一緒に観覧車に乗ることをあんなに楽しみにしていたはずなのに、まったく瑠花の行動が読めない。どうして俺はメグちゃんとふたりで観覧車に乗ってんだよ。すぐ後を追うようにして高みへと登るゴンドラ。その狭い空間でガクと瑠花が交わす笑顔を垣間見ることができる。
ちぇっ、なんだよ、やけに楽しそうじゃないのか。
「お天気がいいと景色も遠くまで見えてきれいだね」
「ああ、ほんとだね」
観覧車に乗って楽しそうに笑うこの子は瑠花の意味不明な行動が気にならないのか?
「ガクと一緒に乗りたかったんじゃないの? ごめんなほんとに。瑠花のやつ何考えてんだか、いい迷惑だよな」
にこりと笑いかけてきて、まるで動揺している様子がみえない。まったくどうなってんだか。女の子は時に不思議な生き物に思える瞬間がある。男より順応性が高いというか、その時その時を楽しむのがうまいというか。別に悪いことだとは思わないが、理解に苦しむことがある。
「ねえ、祥大くんは瑠花のどういうところに惹かれたの? 教えて」
ちょっと待ってくれよ。そんな質問されたってこっちは答えに困る。ってか、わざわざそんなこと説明したくないっていったほうがいいのか、照れくさいのは俺には似合わない。
「それよりそっちはどうなの? ガクとうまくいってる? 男からみてもあいつは思いやりある奴だし、頭いいし、それに優しいところだってある。彼氏にするにはすごくいい条件揃ったやつだと思うんだ」
「わかってる。ガクくんのことはとても気になる存在。だから瑠花に頼んでリサーチしてもらってるの。瑠花って友達思いでしょ? そういうところも瑠花のことが好きになったポイントだったりする?」
「うん、そうかもしれない、かな」
なんだ瑠花のやつ。そういう理由があったのか。俺はおまえが拗ねてやっているんだと勘違いしたぞ。事あるごとにみせる上唇を尖らせる仕草。朝からずっと気にはなっていたんだ。なんだそういうことだったのか、そっかそっか、だったら俺も納得だ。友達のためにがんばってやりなよ。
「祥大くん知ってる? 瑠花ってね、けっこう男の子にもてるんだよ。この間も学校の帰りに他校の子に告白されてたのをあたしみちゃったんだよね」
「うそ?」
「うそじゃない、ホント!」
「あいつ、そんなこと一言も言ってなかったな」
「あたしから聞いたって言っちゃだめだよ。怒られちゃうから」
「わかってる絶対言わない」
「へえー、祥大くんでもそんな不安そうな顔するんだ。ほんとに瑠花のことが好きなんだね」
あいつ、もてるんだ……。俺、一度もそんな風に考えたことなかったや。そうだよな、確かに瑠花は美弥ちゃん譲りの可愛いルックスしてっからなあ。けど安心しろ祥大、あいつは俺に惚れてんじゃねえか。俺だってそうさ、瑠花のことが大好きだ。俺たちは正真正銘の相思相愛。隙なんてどこにもねえよ。
「ちょ、ちょっと……、祥大くん、あ、たし……」
妄想にひたっている間に、俺たちを乗せたゴンドラは頂上に届きそうなほど高く登りつめていた。
さっきまで笑顔で話していたはずのメグちゃんの顔から笑顔が消えていることに気づく。
もしかして、あれか?
「祥大くん……」
高所恐怖症だったとか?
「だいじょうぶメグちゃん、高いところ苦手だった?」
座面の角を力いっぱいに握りしめるメグちゃんの指が小刻みに震えている。
「怖い……、こっちにきて、ほしい、おねがい」
「わかった。いま移動するから、そのままじっとしてて」
なんとか頂上はすぎたようだ。立ち上がり、メグちゃんの横に移動することに。すると均整のとれていたゴンドラが片方へと沈みこみ、そして大きく揺れ始めた。
「きゃーーーっ、こ、怖いよお、祥大くん、怖い、怖いよお」
慌ててメグちゃんの横に座ると、彼女は俺におもっきししがみついてきた。俺が立ち上がったせいで、余計に恐怖心を煽ってしまったんだ。ごめん、怖かったね。
しがみつくメグちゃんの背中に腕をまわして、彼女を少しでも落ち着かせようと務めた。
「あとはくだっていくだけだから、がんばって」
「うん、こうしてると安心できるからだいじょうぶ」
よかった。少しは落ち着いてくれたようだ、ほんとよかった。
…………? …………!!
よくない、よくない、ちっともよくないじゃないか!!
空きのできた対面側の座席前に広がる空間、そこにはちょうど頂上にさしかかるところの瑠花たちを乗せたゴンドラがみえている。当然俺たちのゴンドラも向こうからばっちりみえている状態で。
瑠花は俺らのほうをじっと見据えていた。ま、まずい、非常にまずい状況だ。
間違いなく誤解されること、免れられやしない。まずい。だからって、メグちゃんを突き放すこともできない。彼女はすごく怯えているんだから。
まずい、瑠花の上唇の状態をみればすぐにわかる。あの顔は完全に怒ってるよな、間違いない絶対に機嫌悪いぞ!




