Episode3 訳はあとで話すから……
なんでこんな凝ったお弁当ができるの?
レシピ本に載っているお弁当みたいに彩りもいいし、おかずの種類もいろいろあって、どれから食べようかなって迷ってしまうぐらい。小学校の運動会の時、祖母が一生懸命に作ってくれたお弁当を思いだすようなメグの力作弁当。ガクくんに祥大まで夢中になって、口を休めることなくパクパクと食べ進めている。
冷蔵庫にあるもので間に合わせで作ったって言ってたわりには、ピックに刺さったプチトマトときゅうり、そのてっぺんに鎮座しているうずら卵。冷蔵庫にいるかな? 普段から常備している確立って低くない?
どうしても疑ってしまう。最初から作るつもりで、準備してたんじゃないかって。
こんな風に思ってるあたしっていじわるなのかな。うずら卵をほおばりながら、どうにも納得いかなくて、もやもやした気持ちが心ん中に渦巻いていた。
「俺ね、アスパラにベーコン巻いたやつ、すっごく好きなんだよね。ほんとうまいよ、これ」
ガクくんったら、ほんとにうれしそうだ。
メグはきっとガクくんのこういう顔が見たくて、ぬけがけみたいになっちゃったけど、お弁当を作ろうと考えたのかもしれないね。だったとしたら、かわいい女心じゃない。それくらい心を広く持ってわかってあげなきゃいけないんだよね。
祥大まで満たされた顔して幸せそうに食べている。メグにとっては、祥大はついで。お呼びじゃないんだからね。それなのになによ、今朝あたしが作ってあげたフレンチトーストの時より満足げなんじゃないの。
もう、無神経。ばかばかばかっ。
くやしい。もっと料理の腕みがかなきゃ。「男は胃袋でつかみとれ!」とか、そんなセリフ聞いたことがある。
だったら、みてなさいよ祥大! あんたの胃袋はあたしのもの。明日から、うーん、あさってから、うーん近々、がんばることにするから。祥大を夢中にさせるくらいにおいしいもの、ぜったい作るからね。
メグのおいしいお弁当のおかげでおなかを満たすことのできたあたしたち。
この後、激しい乗り物に乗るのはちょっとね。そういうことで、まったりと観覧車にでも乗ってみようかってことになり、遊園地の中でいちばんの高さがある観覧車めざして歩きはじめた。
祥大の横に並ぼうとしかけたあたしの袖をちょこっとひっぱって、その足を止めさせたのはメグ。
「瑠花にお願いがあるの」
「どうしたの?」
「あのね、観覧車なんだけど、瑠花はガクくんと一緒に乗ってくれない?」
「ええ?!」
なんであたしがガクくんと乗らなきゃなんないの? それっておかしな話だよね。
「あのほら、観覧車って、せまい空間でしょ、密室でしょ。だからあたし……」
「もしかして緊張して一緒に乗れないとか?」
「う、うぅん、それもあるしぃ、瑠花がガクくんと一緒に乗って欲しいのは、それとなく探りをいれてほしいからなの。どう思われているのか気になるっていうか、ね?」
「わかった、わかったよ。それだったらいいよ、協力する!」
ガクくんのことようやく本気で好きになったんだね。いつもの元気っ子メグなら、そのまま積極的にいくのかと思ってたけど、ガクくんのことを意識しちゃうとこんなにも消極的になってしまうんだね。意外だったけど、かわいいよメグ。
祥大は当然のようにあたしの手を引いて観覧車に乗り込もうとした。だからあたしはその手をさっと引っ込めたの。
「祥大は、ほらっ、メグと一緒に乗って!」
代わりにメグの背中を押して、祥大へと託した。
なんだか、妙な気分だよ。なんとなく複雑な気持ちがして。
一瞬だけ切ない気持ちが込み上げてきて、でもすぐに消えていった。
突然のことでわけが分からず、係の人に誘導されるまま観覧車に乗り込んだ祥大が、こちらを気にしながら見ている視線を感じた。
心にちくちくと突き刺さるその視線からはわざと目を逸らしながら、次にきた観覧車へとガクくんと一緒に乗りこむ。
祥大、ごめんね。訳はあとで話すから――。




