Episode2 本日の主役
待ち合わせた駅のホームに着くと、すでにメグは到着していたようで、その手には大きめのトートバッグがしっかりと握りしめられている。遊園地で遊ぶのに邪魔になっちゃいそうだね。あたしが心配してもしかたがないことだけど。
あたしたちに気づくと、トートバッグを肩に掛けてから、元気よく手を振りベンチから立ち上がる。日の光を浴びて笑顔はとても健康的で、ガクくんにも見せてあげたかったなって、惜しい気持ちがした。
「おはよう瑠花、祥大くん。いい天気になってよかったね。遊園地なんて久しぶりだから嬉しくって。祥大くんのそのジャケットいいね。すごくカッコいいし、似合ってる」
「ほんとに? ありがと。メグちゃんも制服の時よりも今のがいい。かわいいよ」
なにふたりで褒めあってんだか。祥大もメグもニヤニヤしすぎだよ。祥大は男なんだから、もっとしゃんとした顔しなよ。みっともないんだから。
軽い嫉妬を胸に抱くあたしになんて気づきもしないふたりは、ホームへの階段から少しずつ姿を現しつつあるガクくんに気づいて、手をあげて合図を送っている。
4人揃ったところで、再び電車に乗り遊園地を目指した。
お天気に恵まれたせいか、週末の遊園地は子供連れやカップルでにぎわいをみせている。
あたしたちは園内のパンフレットを開いて眺め、何から乗ろうか話し合った。そしてしょっぱなから激しいジェットコースターに乗ることとなった。すでに行列のできているコースター待ちの列に並びながら、次は何にしようかというような話題で盛り上がっていた。
コースターにはメグとガクくん、あたしと祥大で隣り合って乗り込んだ。
「あー、どうしよう、ドキドキしてきたよお。祥大は平気なの?」
鼻先でふっと軽く笑った祥大は、バーを力いっぱい握りしめているあたしの右手に、自分の左手を覆い被せてくれた。
こういうのっていいよね、さりげなくて。心拍数はあがったまんまだけど、少しだけ安心感とときめきが交じり合ってドキドキしながらもわくわくもしてきた。
楽しい。やっぱり祥大と遊園地に来れてよかった。さっきはちょっとだけいじいじしたけど、そんなこと忘れるくらい、今日一日に対しての期待度がアップしてきた。
動き始めたコースターにあたしは絶叫の坩堝と化した。思考することすらできないくらい余裕なく興奮し続けて、プラットホームに戻ってきた頃には、肩ではあはあ息をするくらいの興奮状態にあった。
祥大は「うおーっ」とか横で言っていたわりには、降りた時は意外と普通で、少しふらつきぎみのあたしの腕を持って支えながら歩いてくれた。さりげなく優しいところに女の子はきゅんきゅんきちゃうんだよね。
あれ? 草食系男子くんは恥ずかしいのか、メグのことを気にかけながらも手を伸ばす勇気がもてないようすだ。
「メグちゃんはだいじょうぶだった?」
祥大がすかさず、もう片方の腕を伸ばしメグの腕をそっと掴んで支えている。
両手に花って、こういう状態のことをいうのかな? さっきまできゅんきゅんだった心が、次の瞬間にはしゅんとなって。
結局は誰にでも優しいんだ祥大ってやつは……ばかっ。メグのことはガクくんに任せておけばいいじゃない。
俯きながら歩く心の中は、ジェットコースターに乗っている時と違っておしゃべりになっていった。
この後いくつかの乗り物に乗って、そして正午を過ぎた頃、おなかが減ってきた。
「12時まわっちゃったし、レストラン混んでるかもしれないね」
あたしがそういうと、祥大があたりをぐるりと見渡してから
「そうでもないかもな。気候いいからか、カップルや親子連れはシート引いて弁当持参してるみたいだしさ」
本当だ。気持ちのよさそうな芝生の広場にレジャーシートの花が咲いている。
「とりあえず、レストランに向かいますか」
ガクくんがそう言ったすぐ後にメグが意外な言葉を口にして、あたしは呆然となる。
「あたしね、お弁当作ってきたんだ」
大きなトートバッグを掲げながらメグがはにかんでいる。
うそぉ、うそ、うそ、うそっ!!
だって、だってさ、お弁当を作ろうと提案したあたしに、お弁当はまた今度にしようって言ったのはメグのほうじゃなかったっけ? お料理は苦手って言ってなかった? なのになぜ?
「メグ……、お弁当つくったの?」
「う、うん、朝ね、すごく早くに目が覚めちゃったから作ってみたの。時間もてあましていたから。でもね味には自信ないんだよ、おいしいかどうか」
「なんだよ、瑠花も早くに目が覚めたって言ってたじゃん。おまえも作ればよかったのに」
ひどいよ、祥大。あたしの事情も何も知らないくせに、そんなこと言うなんて。
悲しくて悔しくて、今にも涙がでそうになった。
――でも、あたし、がまんしたよ。今日の主役はあたしじゃないから。メグが主役なんだから花をもたせてあげるのが当然。そう自分に言い聞かせながら。
「えへ、気つかなくってだめだね、あたし」
涙腺に気合を入れながら、おどけ笑いで誤魔化してみせた。




