Soda12(R-side) ふたりでいっしょに
祥大が先にメグへと友達の『坂中 学』くんを紹介してくれて、その後あたしが坂中くんへとメグを紹介した。
今ここには甘酸っぱい空気が漂っているようで。照れながら挨拶を交わしているふたりが初々しく映る。祥大が連れてきてくれた坂中くん、通称ガクくんは草食系男子な感じで、やさしそうな雰囲気のする男の子。メグがガクくんのこと気に入ってくれるといいな。
あれ? なんだろう、どうした?
横からグイグイと肘で腕を押してくる。
メグへと視線を向けると、彼女は祥大へと目配せしながら、なにかを訴えかけてくる。
もしかして祥大も紹介しろってこと?
そうか、そうだよね。有未香も祥大のことを一応あたしに紹介してくれてたっけ。
「ごめんねー、紹介してなくて。この人があたしの彼氏の『田中祥大』くんです」
やだな、なんか照れくさいや。
祥大をこんな風に人に紹介するの、本当に照れくさいよ。
「はじめまして」
メグは祥大へと微笑んで、ちょこんと頭を下げている。
「あ、どうも。いつもこいつがお世話になってます」
祥大ったら、クールぶった顔して「こいつ」とか偉そうに言ってるよ。カッコつけちゃってさ。
メグの代わりにあたしがガクくんへとメグが聞きたそうなことを思い浮かべながら質問をしてみたり、祥大がメグに質問して、その話題をガクくんに振ってみたり。なんとか場をもたせようとふたりとも一生懸命に努力していた。
その甲斐あってか、次第にメグもガクくんも緊張がほぐれてきたようだ。メグは本来のおしゃべり好きを発揮していき、ガクくんは適度な問いかけや相槌を交えながら、聞き上手に徹していた。
このふたり、結構バランスがとれていていい感じかもしれない。
そう思うと嬉しくって、始終笑顔になっていた気がする。
メグとガクくんを駅の改札口まで送り届けて、そこでふたりとはバイバイした。あたしと祥大は駅前ロータリーからバスに乗った。
「おまえ、今日楽しそうだったな」
「うん。楽しかったよ。あのふたりって、バランス取れてていいと思わない? きっと、うまくいくよ。よかったあ、ふたりを引き合わせることできて」
祥大と一緒になにかを成し遂げた。その達成感で心は満たされていた。
「おまえ、いい女だよ」
「なに急に? 祥大っがあたしのこと褒めるなんて、気色悪いじゃん」
「ばーか。せっかく言ってやってんのに、素直に受けとれないのか」
「うん。ありがとう」
いつになく素直になってお礼を言って、そのあとチュッてした。どちらともなくチュッて。
バスの中には乗客がまばらに居るだけで比較的空いている。最後尾の席に座り、揺れるバスの中、そっと触れる程度に唇を合わせ続けていた。
そうすることで祥大からのメッセージが、あたしの唇を伝って心の中まで届けられる気がした。
『今日のおまえ見てたら、友達に対する思いやりの感情が顔いっぱいに表れててさ、やさしい笑顔ずっと絶やさずにいただろ。おまえのそういうところが、いい女だなって感じたんだよ。俺の彼女が瑠花でよかったって、俺は改めてそう思ったんだ』
照れくさいけど、そんなメッセージが心へと届けられた気がした。違ったかな?
勘違いしてないよね? あたし。
違わないよって言ってくれないの祥大……。
信号が赤になり、ブレーキを掛けたせいでバスは大きく揺れる。
そのはずみで唇は離れて、祥大は前へと向き直っていく。
「違わねえよ」
ぼそっとそう呟いたのをあたしは聞き逃さなかった。
もしかしてそれって、さっきの心の問いかけに対する答えなの?
だったらすごいよ。心が通じ合っているみたいで。
バスが再び発車するその振動にまかせて、あたしは祥大へとわざと甘えるように身体を預けていった。
愛しい人の隣があたしの指定席。いちばん安らげる場所。




