Soda9(S-side) ラブスクエア
「俺さ、実は好きな子いんだよ。で、告ろうかと思ってんだ」
「それ本当に? ど、どうしよう祥大」
晴哉が唐突にそんなことを暴露するもんだから、クラスメイトを紹介しようとしていた瑠花は、番狂わせに対応できず焦りまくっている。
「こいつさ、自分のクラスメイトで彼氏募集中の子をおまえに紹介したかったらしいぞ。けどその必要はないってわけか」
「気遣ってくれたのに悪いね、瑠花ちゃん。そういうことだから、ほんとごめん」
「ううん、いいの。有未香は彼氏とラブラブだからいいとしても、晴哉くんには今彼女が居ないって聞いてたから、だったら協力できないかなって思っただけなんだ。だから気にしないで」
「ああ、それさ、聞いたとこによると、彼氏と別れたって話だよ」
「有未香が彼氏と? うそでしょ。すーごくラブラブで毎日会ってるはずだし」
「いや、でもそう言ってたから」
「なにがあったんだろう?」
有未香を心配する瑠花の顔が曇っていく。
「で、なんで晴哉がそのこと知ってんだよ?」
頭を掻きながら、晴哉は有未香と交流があったことを白状した。
瑠花と晴哉を引き合わせたあの日、カフェの帰りに乗り合わせた電車の中で、お互いの連絡先を交換していたらしい。初めは瑠花とうまくいくよう有未香に協力してもらう目的だったらしいのだが。俺が有未香を振ったことで彼女が落ち込み、晴哉に連絡してきたり。お互いの恋愛相談するうち、友達のような関係になっていったんだって、晴哉は言っていた。知らないところでそんな繋がりがあったとは。
「俺がさ、元彼と話つけてやったんだ。有未香はあの野郎にDV受けてて、心身ともにボロボロになってくのを黙ってみちゃいらんねーつか、許せなかったんだ」
「DV? 有未香が彼氏に暴力を受けてたってこと? そんなあ。……有未香かわいそうだよ」
目をうるませながら、小さく呟く瑠花。
俺にとっても衝撃的だった。短い間とはいえ、俺の彼女だった子がそんなひどい目に遭っていたなんて。俺だって知ってたら黙っていられるもんか。もし今目の前にそいつが居たら、思いっきし殴り倒してやりたい。見たことも会ったこともない男に、無性に腹が立って仕方がなかった。
瑠花からは「毎日デートに誘われて、すごく仲がいいんだよ」そう聞かされていたから、有未香を振っちまった罪悪感から、少しだけ救われたような気でいた。
DV男は、有未香の行動を必要以上に束縛をし、気に食わないことがあると手をあげるといったサイテー野郎だったらしい。男の風上にもおけないやつだ。
「ぶっちゃけると、有未香のこと友達以上に感じててさ。俺が告ろうとしてる女ってのは有未香なんだ。やべ、言ってまった」
「晴哉くんそれほんとに?」
マジかよ。
晴哉の好きな子というのは、有未香のことだったのかよ。
俺がいうのもなんだけど、有未香は従順で明るくて素敵な女の子だ。有未香なら晴哉が以前から言ってる理想のマジカノになってくれると思うぞ。
よかったな晴哉。有未香もきっとおまえの気持ち受け入れてくれるさ。
晴哉に付き合ってバーガーセットを食っちまった俺と瑠花は、バスを降りてからの帰り道、腹を空かすためにと、少しだけ遠まわりして帰ることにしたんだ。
小川の流れる遊歩道を瑠花とふたり手をつなぎながら歩き、晴哉と有未香のことを話していた。そうすると自然と温かい気持ちになれて、ふたりとも笑顔になれた。瑠花の手の温もりが伝わってくる。隣に居てくれることが嬉しくてたまらなくなる。
春先になれば白や桃色の花をつける花水木が、秋の深まりの元、花に負けないほど葉を赤く染め、薄暗くなった遊歩道に灯る街灯に照らされている。
俺が木や花を意識して観察していること自体、似合わねーんだけど。
「桜もいいけど、あたしは花水木の花のほうがかわいくて好きなんだ。うちの庭にもあればいいのになあ」
瑠花がそんな風に語るからだ。
俺は今まで名前すら知らなかったこの花水木という木のことが好きになりそうだ。
春になったらふたりで遊歩道を華やげる花水木を見にこようと約束をした。




