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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
CRANBERRY SODA
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Soda7(S-side)  思いがけない展開で


「今日おまえさ、バイト入ってないんだろ。だったら付き合えよ。腹減ってんだ俺」

「おまえ、昼メシあんだけ食っといて、もう腹減ってんのかよ」

「昼メシ後に無駄な運動させられっからだ。体育なんてかったりぃだけなのにさ」

 しかたない、付き合ってやるか。

 晴哉には、瑠花のことも話さなきゃなんないんだし、これはちょうどいい機会なのかもしれない。それに今日こいつってば朝から機嫌いいんだよな。うまく話せるチャンスかもな。

「祥大みてみ。校門の辺にぎやかじゃね?」

 どうせ桜女の女とうちの生徒がもめてんだろうよ。ここではよくあるこう光景だ。たいして気に留めるほどのものではない。

 晴哉はおもしろがって、俺よりも歩幅を大きくさせ、俺の前をずんずんと足早で歩み始め、さわぎの現場へと突進していく。

 誰と誰がくっついたとか、別れただのという他人の恋愛に、興味なんてねえし、なんも感じないよ俺は。好きにしてくれって思う。俺って冷めてんのか。


「あれ、瑠花ちゃん? 瑠花ちゃんじゃないのかよ? おい、しょーた!! 祥大たいへんだぜ。囲まれてんのはあの瑠花ちゃんだぞ」

 瑠花だって? まさか。何であいつがここに居んだよ?

 気付けば思考するより先に足が自然に走りだしていた。

 5時限目の体育の短距離走の時よりも、はっきりいって今のほうが真剣にダッシュしている。



「誰のこと待ってんのか知らねーけど、いいじゃん。俺たちと遊ぼうさ。なあ、行こーぜ」

「いやっ、だから行かないっていってるじゃないですか、やめてくださいっ」

 瑠花が男子生徒に掴まれた腕を振りほどこうと全身を大きく揺り動かしている姿が、群がる生徒たちの間からわずかに見え隠れしている。

 声からして、あれは間違いなく瑠花だ。

 何でこんなとこに来てんだよあいつ。男子校になんて女子高生がひとりで来たりしたら、こういう目に遭うことくらいわかりそうなものを。

 現にバイト先の喫茶店に呼びだした時、学校の近くで声かけられて怖かったと、俺にクレームぶつけまくっていたくせに。馬鹿だな、ほんと、学習しろっつーの。

 おまえになんかあったら俺は……、無茶すんなよ。

 猛ダッシュする俺の身体が前を行く晴哉の肩とぶつかった。詫びる間もなくその先にある塊の中へと勢いに任せ突っ込んでく。

「おい、その子に触わんじゃねえよ。いやがってんだろ」

「しょうたーーっ」

「る、瑠花ちゃん?! なんで瑠花ちゃんが祥大のこと呼び捨てにしてんだよ?」

 瑠花は俺に気づくなり、夢中で腕を振り払い、そして駆けだし、俺の背中へとぴったりと身を寄せてきた。あいつらから見えないよう必死に身体を隠そうとしながら。俺の制服のシャツを両手で小さく摘みしがみつく様が背中へと伝わってくる。小刻みな震えと共に。

「なんだそいつ、祥大の女かよ。ちっ、だったらしょうがねえな、見逃してやるか。おまえら、いくぞ」

 主犯格の生徒を先頭にぞろぞろと校門をでていく。瑠花にちょっかいだしていたやつらの中心人物は、2年の時に同じクラスだったやつだ。ギャル男気取りのあいつには、何度か知り合いの女の子を紹介してやったことがある。

 俺には借りがあるからか、あっさり退散していった。



「瑠花ちゃん……」

 その声に振り返る。俺たちを凝視し、呆然と立ち尽くしている晴哉の姿があった。

 まさか、こんな形で晴哉に瑠花とのことが分かっちまうとは思いもしなかった。

 俺は晴哉に対して何か言葉をかけたいのに、言葉がうまく見つからず何もいえない。頭は真っ白になり、ただ焦りという色だけがじわじわと染み込み滲んでいくばかりで。

「晴哉くん、ごめんなさい」

 瑠花は俺から離れると、晴哉のほうへと向き直り、深々と頭を下げていった。

「ごめんなさい。祥大が悪いわけじゃないの。あたしが……」

「よせ」

 俺は瑠花の肩に手を掛け、少し強引に傾ける身体を起こしあげ、頭を下げるのを止めさせた。

「晴哉すまない。おまえにはもっと早くに話すべきだった。なかなか言い出せずに先延ばしにしてたんだが、2カ月程前から俺たち付き合ってんだよ」

 言い終えると同時に、晴哉から視線を外し、足元をみつめた。新調したばかりだろうか、真新しい晴哉の革靴が俺の視界を独占している。

「別にいいよ。そうならそうと早く言えよなおまえ。うじうじしてんじゃねえぞ。それでよく『もて男』きどってんな。だっせーんだよ、祥大は」

「おまえ?」

 それだけ? 晴哉おこらねーのか? 俺はおまえを騙してたんだぞ。

 まったく予想してなかった晴哉からの返答に、少しばかり拍子抜けした。

 瑠花も俺と同じだったのか、晴哉に向ける大きな瞳は、瞬きをすることすら忘れているようで、驚きの表情を浮かばせていた。




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