Soda6(S-side) 俺たちの新たな悩み(2)
なんとかかんとかうまく理由をつけてから、ぎゅーと強くしかも強引なほどに瑠花のことを抱きしめてやる。
「く、くるしいよ、祥大……」
俺の胸板に瑠花の声が響く。ほわほわした感じの瑠花は、すぐにこんな風にして羽交い絞めしたくなるんだ。
今までこんなに強い思いを女の子に対して持ったことなどなかったのに、瑠花に対しては不思議とこうなってしまう。
瑠花はある日突然俺の前に現れて、そして突然俺の身内となった。他の女の子たちとは出会い方がまったく違う。そんな関係から始まった出会いだから、こんなに馴れ合えるのかもしれない。俺は瑠花の前では、今まで他人に見せなかった部分も平気でさらせるような気がしている。クールで通っている俺からは、誰も想像できないだろう。
腕の中でもぞもぞともがく瑠花に対して、ぎゅーと強く抱きしめたまま立ち上がり、別の男のことを考えた罪に対してお仕置きを執行する。一気にベッドの中へと引きずり込んで、罰を与えていく。じたばたと手足をばたつかせていた瑠花も、観念したとみえて次第におとなしくなって抵抗してこなくなった。こいつってば罰を与えられているにもかかわらず、頬を赤らめ、俺をもっと挑発するような甘い息を洩らしている。
俺はこの瞬間が好きでたまんない。瑠花がいちばん素直な姿をみせてくれてる、このひとときがたまらなく好きだ。
瑠花のことが誰よりもいちばん大好きだと感じるこの瞬間。
翌朝、ふたりでバスに乗り込むと、うまいタイミングで席を確保できた。隣り合って座るとすぐに瑠花は忙しそうに鞄の中を探り始めた。愛用のピンクのスケジュール帳をとりだすと、ぱらぱらとページをめくりながらカレンダーを確認している。
「いつがいいかなあ。晴哉くんとメグを引き合わせるの。ねえ、祥大はどう思う?」
「どうって、まだどっちにも話通してないんだから決めようがないだろ。先走りすぎじゃないの」
「だって、善は急げっていうでしょ。こういうことは勢いが大切なの、早く進めなきゃ」
こいつってほんとドジ。瑠花の頭をぽんと軽く叩く。
「あのね、その瑠花の考えは名案だし、俺もいいと思うよ。けどさ、肝心なこと忘れてないか?」
「???」
瑠花はきょとんとした表情で俺をみつめてくる。
まだ気づかないの? マジかよ。
「俺はまだ晴哉に彼女がおまえだってこと打ち明けてないんだぞ。それなのにおまえから友達を紹介するのっておかしいだろ。あいつまだおまえに未練あんのにパニくるぞ」
「あ、そっか。そうだ。すっかりそのこと忘れてた、あたし」
ほんと天然なんだからさ。いっつもひとつのことで精一杯になるんだよな。しょうがない奴。
話がまた振り出しに戻ったことに困惑しているのか、隣に座る瑠花の顔が険しくなっている。真剣に考えをめぐらせているその姿、なんだか可笑しくって、でもって可愛くって、俺はいつものぎゅっとしたい衝動に駆られていく。
ここは通学途中のバスの中。人で満員の車内なんだ。表向きは健全であるべきの俺たちは学生である。ぐっとここは耐えて、瑠花の手を握るだけに留める。
ひざの上にちょこんとのせられた瑠花の白くて小さな手。その手を隣からぎゅっと握りしめる。今はとりあえず、これで我慢するんだ。
「へ?」
急に手を握られて驚いたようで、瑠花は真横から俺の顔を見上げてきた。
理由なんて言えるはずもなく、小さく微笑んでクールにその場を執り成していく。
それなのに瑠花がもう片方の手を俺の手の上に重ねてきて、嬉しそうに笑う。俺の中に熱い物が込み上げてきて、それを押さえる為に残りの手を更に重ねておく。
朝のこういうのもいいよな。
ふたり顔を見合わせて微笑み合う、通学のバスの中。




