Soda3(R-side) 違うんだけど……
「もうちょっとしたら彼氏がここにくるの。そしたらお店でて帰ろうと思うんだけど、それまでここに居てくれる?」
「うそ、幾美ちゃんって彼氏いたんだ。あたしまったく知らなかったよ。だっていつも合コンしてるからさ、てっきりフリーなんだと思ってた」
「ふふん、居るんだよちゃんと。付き合って2年以上になるかな。高校に入学して暫くした頃だったからさ」
そうだよね。こんなきれいで大人っぽい子に彼氏が居ないはずがないんだよね。
けど、彼氏は幾美ちゃんが合コン魔であることを知ったら、ショックだろうなあ。
ばれなきゃいいんだけどさ。いや待って、ばれなきゃいいの?
あたしはやだなあ、もし祥大があたしの知らないところで合コンに参加していたらって思うと悲しいよ。
やっぱ良くないよ、幾美ちゃん。
幾美ちゃんは止めないの?
幾美ちゃんがメールを送信してから、半時間ほど時間が過ぎた頃、幾美ちゃんの彼氏がこのお店にやってきた。その時あたしは化粧室にいて、戻ってきた時にはすでに幾美ちゃんの隣には彼氏が座っていた。席に戻る途中、こちらを意識する視線に気づいていた。
幾美ちゃんの彼氏はあたしの知っている子だった。合コンの時に幾美ちゃんと一緒に仕切り役をしていた魁人くんって子。ふたりは付き合ってないって話だったけど、やっぱりなあって感じ。
みんなに公表せずに、もう2年も付き合っていたなんてね。それなら納得できる。ふたりで合コンの盛り上げ役買ってでて、自分たちは彼氏彼女をみつけようってスタンスじゃなかったことも。ふたりで参加しているのなら問題ないもんね。
ほっとした、幾美ちゃんが悪女なんかじゃなくて。
「久しぶりだね。あん時の合コンでさ、雅紀のやつ相当落ち込んでたんだぜ。瑠花ちゃんに連絡先聞きそびれたってさ」
半分笑いながら、冗談めかして魁人くんはそう言った。
「ごめんなさい。あたし、雅紀くんにひどいことしちゃった」
ほんとうにあの時のことは今でも反省しているんだ。祥大にもしっかり怒られちゃったし。
「体調悪かったんだし仕方ないでしょ。あの子と瑠花とは縁がなかったの。それだけのことでしょ。それに瑠花にはもうちゃんと彼が居るんだから、関係ないの」
幾美ちゃんはあたしが魁人くんに言うより先に、サバサバとした口調で語り、かばってくれた。しかも祥大の存在まで明かしちゃうとは。内心助かったってとこだけど。なぜって、あたしは照れ症だから、自分でそのことをうまく説明できる自信ないからだよ。幾美ちゃんが代わりに話してくれて好都合だった。
「うそうそうそ。誰だよ彼氏って。俺の知ってるやつか?」
「なわけないでしょ。あっ、でも、合コンの時はあの場には居たんだよね。あたしはちゃっかり姿見て知ってんだ。カッコいいんだよー、瑠花の彼氏。超イケメンで」
「ちょっと待てよ。それもしかして、雅紀が言ってたやつじゃねえの? 瑠花ちゃんの兄貴って言ってたらしいけど。じゃあ何、瑠花ちゃんは雅紀に嘘ついたんだ? あいつ、かなり気にしてたからさ。カッコいい兄貴が現れた途端、瑠花ちゃんの様子がおかしくなったっんだって。彼氏いたのに参加してたんだ」
「それは……あの」
魁人くん、嘘じゃないんだよ。ほんとうのことなんだよ。祥大とあたしは兄妹なんだもん。血は繋がらないんだけれど……。それにあの時はまだ祥大とは両片思い中だったし。
「魁人あんたもたまにはするどいとこ突くんだね。その通りだよ。だけどそれが何? なんか問題でもある?」
「あいつか、雅紀が見覚えあるって後からいってたしな。だいたい誰のことだか俺わかるし」
「顔知ってるの? で、なに、なんか文句あるっつーの?」
幾美ちゃんがあたしの代わりにするどく魁人くんに切り込んでいく。かばって応戦してくれてるんだ。頼もしい幾美ちゃんって。
「べ、別にないけどさ、俺あいつ見るとムカつくんだ。遠海だろ。遠海のやつらってやたらにもてっから、俺らN高は敵対してんだ。うちの高校は共学だっつーのに、女はみんな遠海のやつらにいくんだよな。あいつはその中でも人気あって目立ってっから、そんで俺は顔知ってんだ」
「そうなの?」
「だよな、瑠花ちゃん。でも大丈夫なん? あいつに騙されたりしてないよね? あいつらってもてるのいいことに好き放題やってるだろ。遊ばれてたらたいへんだぜ」
「確かにかなりもてそうな感じだったし、あの時連れてた子も結構ハデっちかったよね? 瑠花は純情だから騙されてないか、あたしも心配になってきた。そういえばもう」
「やったの!」
待ってふたりとも。待ってよ!
確かにふたりの言っていることは間違ってはないし、あたしのことを心配してくれていることもすごく嬉しいよ。
でもね、でも、違うの。
あたしたちふたりは特別だから。色々なものを乗り越えてここまでたどりついたふたりなの。お互いを誰よりも信頼している。
だから、もうお願いだからそれ以上言わないで。
祥大を悪く言わないで。
「ち、ちがうの」
否定する言葉を小声で溢した。
なのに、ふたりには届かなかった。




