Bittersweet11 ほろ苦い後の甘さって格別だね
なんとなく、美弥ちゃんの顔もお父さんの顔も直視しづらいよ。
きょどってないかなあ、あたし。
そんなことないよね? 祥大は……?
いつもどおり落ち着いているみたいだね。相変わらずダイニングの椅子に座り崩した格好をしている。
祥大は意外にも平然としていられるんだ。あたしはあの行為だけでもどきどきだったのに。これは経験量の違い? 微妙に凹むよ。
けど、微妙なのはそれだけじゃないの。あたしは嫌なんだ、やっぱりね、このままじゃしっくりこないっていうか落ち着かない。
あたしは昔からぶきっちょで。だから隠し事があると、それをうまく誤魔化して切り抜けていく自信がないんだよ。
こんなこと、すぐにばれちゃうよ。それだったら一層のこと……。
「あ、あ、あの、あのぅ、あた、あたし……祥大のことが好き、なんだよね」
突然のとんでもないカミングアウトに、祥大はずれて座っていた椅子から身体を乗り出してきた。
「おまえっ何言ってんだよ」
「そうか、それはよかったよ。瑠花ちゃんもやっと祥大との生活に馴染んでくれたんだね」
あのお父さん、そういう意味じゃ……なくってね。実は、もっと深い意味で言ってるんだよ。
「瑠花、それってのは『LOVE』って意味でしょ?」
するどく切り込む美弥ちゃんは、ニコニコしながらあたしのことを見てくる。当たっているけど、そんな暢気に構えていてだいじょうぶなの?
あたしのほうが逆に心配になるってか。
「ええ、そういう意味だったのか? おい、祥大、どうなんだ?」
お父さんの声が一段と大きくなった。
ほらやっぱり! だよねだよね、ああー、どうしよう。お父さんに祥大がしかられちゃう。
あたしのせいだ!
やっちゃったよ、あたし。フォローできない、ごめんっ祥大!
「いや、おやじ、これは、つまり……」
さすがの祥大も相当焦っている。ごめんね、ごめんね、あたしのせいで。
「つまり、そういうことなのね? 時間かかっちゃったけど、あなた、よかったわね」
美弥ちゃんが向かいあって座るお父さんの手をとり、そしてふたりは嬉しそうに見つめ合っている。
ちょっと待ってよ美弥ちゃん、これ、その反応どういう意味なの?
あたしたち怒られるんじゃなかったの?
祥大も身を乗り出したまま、ふたりの様子をみて固まってしまっている。
「瑠花も祥大くんも聞いてくれるかしら。わたしたちはね、結婚する前から言ってたのよ。あなたたちが恋人同士になってくれたらいいのにねって。心からそう願ってたの」
「それってどういうことだよ? おやじ」
祥大が訳のわからないことを言い始めた親たちに噛み付いている。
「俺の大事な息子と美弥が大切に育ててきた娘が、俺たちみたいに好きあってくれたら、俺たちは本当の意味で繋がった家族になれる。そういう意味だ祥大」
「わたしたちにとって自慢の娘と息子なんですもの。惹かれあってほしかったのよ」
「そんな話、聞いたことないよ。普通はダメだって怒るんじゃないの? 世間体とかいろいろ気にしたりしてさ。あたし、本当に……悩んだんだから」
ほんと、悩んでた、ずっと。おない年の兄妹ができたときから、祥大のこと好きになっちゃったらどうしようって、怖かったんだよ。
「世間は世間よ。田中家はこういう流儀なの。これでもわたしたち、色々気をまわしてやってたのよ。しょっちゅうふたりで出かけて留守にしてたのも、あなたたちをふたりっきりにする時間を作るためだったし。あまりにもふたりが口を利かないものだから、だめなのかと諦めもしたし。最近になってやっと、仲がよくなっていたから、密かに喜んだりしながらね」
そう言うと、美弥ちゃんは今度はあたしの手を握りしめてきた。
なんなの? これって夢じゃないよね?
今時の親ってここまでぶっ跳んでるものなの?
若者であるあたしたちのほうが、ほんとびっくりだよ。
あたしと祥大は、呆れ顔でお互い顔を見合わせていた。
両親に祝福されてることが徐々に実感として湧いてきて、にっこりと微笑んだら、祥大も微笑み返しをしてくれた。
「そうと分かったら旅行ね。どこか旅行にでかけましょうよ。わたしさっそく明日、旅行会社に行ってくるわ。ハワイとか奮発しちゃおうかしらね」
美弥ちゃんのテンションが、みるみるあがっていくのがわかる。そんなにもあたしと祥大がくっつくことを待ち望んでくれてたなんて。
考えてみれば、ふたりはあたしたちに気を使ってか、新婚旅行すら行けてなかった。これはいい機会かもしれないね。美弥ちゃんたちが新婚旅行なら、あたしと祥大にとっては婚前旅行とか?
きゃー、なに考えてんだか。家族旅行に決まってるじゃん。
気が早すぎるんだよー。だけど嬉しい。
今までのあたしと祥大の顛末はなんだったのか、いろんな障害抱えて、じたばたしてきたよ、あたしは。
いっぱい悩んで、いっぱい落ち込んで、いっぱい泣いて。苦労することも多かったけれど、その分余計、強い絆で結ばれたんだと思う。
今のあたしは両手いっぱいの幸せを噛みしめていられる。
祥大に出会ったことを恨んだ日もあったけど、あたしたち出会えてよかったね。
今なら運命を信じることだってできるから。
*** CARAMEL MACCHIATO * end ***




