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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
CARAMEL MACCHIATO
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Bittersweet4 コンプレックス


 祥大とふたり、喫茶店を出たときには、外はもう夕焼けが終わり、暗くなりつつあった。

「ねえねえ、なに食べに行こーか?」

 祥大に並んで歩くあたし、ちょっとだけ可愛い子ぶってみる。斜め下から祥大の顔を見上げるような仕草で問いかけてみた。さっきまで桜女の子たちに注目浴びてた祥大を今はあたしひとりで独占しているんだって思うと、なんだか嬉しくって。ついテンション高くなっちゃうんだもんね。

 こうして並んで歩くあたしたちって街を行き交う人たちの目には、どう映っているのかな?

 やっぱり付き合ってるっぽく見えてんのかな。

 戯けた想像をしながらにやにや歩いているあたしは、いつのまにか祥大の横ではなく、後を追うようにして歩いていることに気づいた。祥大ってば、あたしを無視するようにずんずん先行っちゃうなんて信じらんない。

「ちょっと待ってよ、足はやすぎ。もっと女の子の歩調に合わすとかできないの?」

 祥大ったら、どうしてこんな時だけ素直なのよ。

 急に足を止めた祥大の背中に、あたしは顔をもろにぶつけてしまった。

「いたーいっ、鼻が潰れちゃうよ、もうっ」

「へえー、おまえって潰れるほど鼻高かったんだ?」

「ちょっと何よその言い方。むかつくんだから。人がいちばん気にしている欠点をけなすなんて男としてサイテーだよ。ばか祥大っ」

 背後からぎゃーぎゃーと喚くあたしに振り返った祥大は。

「そうかあ? 俺はこの愛嬌ある鼻、結構気にいってんだけどな。おまえ嫌いなんだ」

 あたしの鼻先をぷにゅぷにゅと人差し指でいじくりながらそんなことを言ってくる。

「もうっ、やめなよ」

 やめてよ。あんたったら、ほんと上げたり下げたり、人の心くすぐるのがじょうずなんだから。

 そうやっていつも女の子の気引いてんでしょ。

 悔しいけどあたしは、祥大の手のひらの上でうまく転がされてばかりいる。

 完全に負けのはいったあたしの手をひいて、祥大は前を向きすたすたと歩き始めた。

 おっきな手。あったかい手だ。鼓動が騒がしくなってくる。


 手を引かれながら、やがて雑居ビルの中にあるカラオケボックス店へと吸い込まれていった。

「夕飯食べるのに、なんでカラオケボックスなわけ?」

 あたしの言葉は無視して、カウンターで受け付けを淡々と進めている祥大。

 部屋に案内されるなり、もう一度文句言ってやった。今度は無視はなしだからね。

「まあ、いいから。おまえもメニューみて好きなの注文しなって」

 しっくりいかないあたしだったけど、それでもメニューにはしっかりと手をかけていた。

 あれ? ここってカラオケボックスのわりには結構おいしそうなメニューがそろってんだ。

 このカルボナーラは写真でみるかぎり、めっちゃおいしそう。本当にこんなのが運ばれてくるかは疑問だけど。

 部屋に入ってきた店員さんにそれぞれ注文を伝えて、それからカラオケのリモコンチェンジャーを手にとった。つい癖でなんとなく手にとってはみたものの、祥大とふたりっきりでカラオケするなんて、なんか照れちゃいそうであたし、歌えないよ。

 ねえ、祥大は? そんな風には思わない? あんたも照れるよね。


 って、そんなことないみたいだ。

 モニターの画面にタイトルが出て、いつの間にか祥大がマイク持ってスタンバっていた。

 あたしが料理のオーダーに夢中になっている隙にいれてたんだ。

 ふーん、やっぱ祥大もあたしと変わらない今どきの高校生なんだね。流行の歌とかちゃんとマスターしてて、完璧に歌えてるじゃん。

 そうと分かればあたしだって負けてらんない。対抗心燃やして急に歌う気満々になってきたあたしは、当然のようにルチアの曲を転送した。ルチアの曲がオープニングソングだってこと、毎回お決まりなんだ。

 祥大の歌が終盤に差し掛かった頃、オーダーした食事が次から次へと運ばれてきた。

 そのあと続けてあたしの選曲した曲のイントロが流れ始めた。

「おまえまたルチアか。好きだよなこいつら」

 呆れた顔で祥大はあたしのことを見ているけど、気にしないでマイクを握り締めた。

 ううっ、毎回そうだけど男の人の曲って低かったり高かったり音域広くて、女子には結構無理があるんだよね。

 祥大にバカにされそうだなあ。

 間奏の間にチラッと様子を見てみると、祥大はあたしを待たずに運ばれてきた食事を口にしているところだった。

 それってフライング。あー、もう唄はいっちゃう。

 そのカルボナーラはあたしが注文したんだからね。

 だんだん唄うどころじゃなくなってくる。


 唄い終えるなり「ちょっとそれ、あたしの……」そう伝えようとしたのに、フォークにくるくると上手に巻きつけてあるカルボナーラは、祥大の口に向かうでもなく、小皿を受けにしてあたしへと差しだされてきたのだ。

 それってでも「あーん」ってやつじゃないの?

 やだやだ、恥ずかしい。あたしがやるとまるっきし子供みたいじゃん。

 そう思いながらも目の前の物食べたさに、口が勝手に開いていった。

 ……うむ!

「ここのカルボナーラいけるね」

 マジおいしいよ。

「だろ? ここのメシいけるんだって。ふふん、それに瑠花の歌も初めて聴いたしな」

 またまた子供みたいになって、祥大に頭をなでなでされているあたし。

 祥大にとってあたしは、子供で、まったく色気ないし、はねっかえりだし……。そんなところでしょ?

 今となってはマジで妹としてしか見てくれてないんでしょ?

 切ないなあ、あたし。祥大の妹だなんて……。




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