Bittersweet2 俺の妹って……
なんてことなかった。わりとあっさりしてたんだ。
何について言っているのか、それは有未香のことなの。
長い片思いの末、手に入れた恋。祥大との交際は真剣だったってあたしは信じていた。
3年に進級してあたしたちはクラスが別々になり、有未香は同じクラスになった早百合に誘われて合コンに参加したらしいの。そこで知りあったS高の男の子と付き合い始めたんだって。さっき嬉しそうにあたしのところに報告に来たの。
変わり身の早さにはちょっと驚きだったけど、有未香が立ち直ってくれて、それはそれで安心したからいいかなとも思う。彼女がハッピーなんだったら。
えっ? だけどちょっと待って。
有未香がそうなったってことは……。あたしと祥大の間になんの障害もなくなったってことなんじゃないの?
それはもしかしてもしかすると……そういうことだよね?
うわうわぁ、どうしよう! あたしにとってもラッキーなことなんじゃない。
これで誰に遠慮することもなく、祥大に好きって言えるんだもん。
『好きっ』って。
言えるんだ……、言える?
言えるの?
言えないよぉ、だってあたしって意外と根性ないんだもん、今更、恥ずかしくてそんなこと言えっこないよ。
朝食の準備をしながら、美弥ちゃんがいつものセリフを言ってきた。
「瑠花、祥大くん、今晩もお父さんと映画を見にいく予定にしてるの。だから」
「わかってるって夕飯でしょ。あたしらもう高校生なんだし心配ないってば。だから遠慮せず行ってきなよ」
最後まで言わないうちから、返事を返しているあたし。
「祥大くんも?」
美弥ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら祥大のことを見ている。
「いいっすよ。親が仲いいのって子供としても安心だから」
「祥大もたまにはいい事いうじゃないか。そうかそんな風に思ってくれてたんだな。父さんは正直言うと、おまえのことが心配だったんだぞ。瑠花ちゃんに無愛想にして馴染めてないんじゃないかとそう思っていたんだ」
「そんなことないって、おやじ。こいつは俺の妹なんだからそれなりに気使ってやってるし」
なにが『俺の妹』よ。親の前ではいい子ぶっちゃって。あたしのこと妹だなんて思って気使ったことなんてないくせに。
それにさ、誕生日だってたったの10日違うだけじゃない。10日くらい先に生まれたからって偉そうに兄貴面されたくないっつーの。
なんであたしが祥大の妹なのよ。
なんかそれってさ、せっかく障害がなくなったって浮かれているあたしに対する、衝撃発言でしかないんだよ。
祥大のばかっ。
校門を出たところで電車通学の友達と別れたあたしは、学校のすぐ前にあるバス停のベンチでバスが来るのを待っていた。そしたら有未香がバス停の前を通りかかって、あたしがいることに気づくと、笑顔で隣に腰を下ろしてきた。
「あたし今からデートなの。今度の彼氏はあたしに夢中でさ、毎日デートに誘われるんだぁ。瑠花はまっすぐ家に帰っちゃうの? 早く彼氏作りなよ。いいよ彼氏いると毎日楽しくて。そうだ彼氏に言っとこうか? 誰か紹介してもらえるように」
「いいよ、いい。あたし今はスイッチオフだからさ」
「そうなの? んじゃ、あたし行くわ、彼氏が待ってるから」
短いスカートをヒラつかせながら足取り軽く有未香が彼氏の元へと急ぐ。
その姿をみていても、以前のように気持ちが焦ったりなんかしないんだ。
だって、あたしには祥大が居るんだもん。男の子なんて紹介してもらわなくても、心は祥大で満たされているんだから。
家路に向かう系統のバスが停まった。
空いてる席はあったけれど、あえてつり革に手を伸ばした。何故ならみっつ先の停留所で降りるからだ。
祥大が通う遠海学園のあるバス停に降り立った時から、遠海学園や他の男子校の生徒たちの視線が痛かった。確かにイケメンが多いという噂通り男前ぞろいなんだけど、見慣れない女子高の制服を着た女子には、とにかく敏感に反応するようで落ち着かない。すぐ近くにある桜里女学院の生徒たちもたくさん歩いているのに、あたしばかりじろじろ見ないで。
「かーのじょっ! その制服って昇華だよね?」
「誰か探してんの? 一緒に探してあげよっか?」
「いえ、いいです」
「遠慮してんだ、かわいいー」
「それよかさ、今から俺たちとどっか遊び行こ」
しつこく声かけられて、逃げ出したい今すぐここから。
しかもひとりとかじゃなくて、数人で囲んでくるから怖くなってきた。にやにやしながら馴れ馴れしくあたしの周りに群がって、やーもう、腕掴まないでよお願い。
やだあ、祥大たすけて。怖いよこの人たち。無理矢理どこかへ連れてかれそうだよ。
祥大……たすけてーーーっ!!
心の中で何度も何度も叫んだけれど、あたりを見渡しても祥大の姿はどこにもなかった。
物語のように都合よく現れて、あたしを助けてはくれないんだね、祥大は。
いじわる。




