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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
CARAMEL MACCHIATO
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Bittersweet1 友達のかわりに


 冬のイベントであるバレンタインデーにホワイトデー。

 そういった女子が特に盛り上がるイベントをあたしはすべてスルーして、そして高校3年生になっていた。

 校門をくぐると桜の花びらが風にあおられるようにして舞い落ちてゆく。

 そんな光景に感嘆の声をあげている新入生たちに比べて、ここに丸2年も通い続けているあたしは、すっかりそんな純真さをどこかに置き忘れてきたようで、春休みぼけした頭をなんとか奮い立たせていくことで精一杯だ。



 思いおこせば祥大に晴哉くんを紹介してもらったあの日から、祥大はやっぱ有未香の彼氏なんだってことで、あたしは友達を裏切れない。だから祥大への気持ちに蓋をして、なんとなく祥大を避けるようにして生活していた。

 あたしって極端に不器用だからか、祥大にはバレバレで。告られてからもちょっかいだして構ってきた祥大だったけれど、徐々にそれもなくなり、あたしへの執着も無くしたようにみえてくる。

 自分で招いたことだから誰を責めることもできない。

 八方塞な状態で過ごした高2の冬。


 完全な春を迎えたわけでもなく、中途半端な季節のまま春休みに突入したある日、再びあたしは有未香に例のバーガーショップへと呼び出された。

 あの店というだけで、有未香から祥大に告ったと聞かされたことを思い出す。その時は告った相手が祥大だったなんて知らずに、他人事のようにして話を聞いていたんだけれど。

 なんだかずいぶん前のことのように感じてしまう。

 まだ高校生のあたしにそんな深い歴史なんてあるはずもないのにね。

 最近は祥大とひとつ屋根の下で仮面兄妹になってしまっているから、あたしってばマイナス思考でやになっちゃうほど暗いんだよ。

 有未香には申し訳ないんだけど、バーガーショップで有未香から開口いちばんに聞かされた言葉にひどく動揺しちゃってあたし、感情がコントロールできず、友だち我いのないこと思考してしまったんだ。

『瑠花、あたしふられちゃったよ祥大くんに。もう最悪だよ。あたしこれからどうしたらいいのか……』

 その言葉を聞いた瞬間、友達の不幸であるにも係わらずあたしの頭の中では、先日の祥大の言葉が思い起こされていた。

『俺、有未香と別れることにしたから』

『絶対に俺のことを好きにさせてやる』

 あの時心臓が壊れそうに騒がしかった感覚が、あたしの身体に呼び戻されてくるのがわかった。

 なんて不謹慎なあたし。だけどすごく素直な反応のあたしでもある。

 もちろんその後は冷静になって、友達として有未香のことを慰めていたよ。有未香の話を聞いて、惜しみなく流している涙を見ていたら、祥大に対してすごく腹が立ってきたんだ。

 だってあいつの別れの理由。嘘ばっかなんだもん。

「俺、医大を受験するつもりだから女の子と付き合っている暇がなくなってしまったんだ」

 そんな風に有未香に対して言い訳したっていうじゃない。

 だけどあたしは知っている。あいつったら受験生のくせに今でもバイトに精をだしていること!

 なにが医大を受験よ。

 祥大が医者めざしているなんて、あたしん家で一度も話題にのぼったことなんてないし、しょうもない嘘ついて大事なあたしの親友を傷つけるなんて、やっぱ許せないっつーの。

 祥大のばかったれっ!


 有未香と会ったその日、キッチンにいる美弥ちゃんにただいまも言わずに、3階の祥大の部屋に突撃していった。

「あんたどういうつもり? なんで有未香のことふったりなんてするの? あの子は本当に祥大のことが大好きなんだから。なんでもっと大事にしてあげられないのよ」

 医大受験の為ならと何ひとつ文句も言えずに、涙を飲んで別れを受け入れた有未香のかわりに、あたしはあいつに怒鳴った。

 なのに祥大はぽかんとした顔であたしの顔を見上げてから、妙に爽やかぶった笑顔をあたしに対して投げかけてきた。

 ちょっとあたし今、いかってんだけど。調子狂わすような笑顔なんてみせないでよね。

「あーあ、あのこと。見てわかんない? 俺ほんとうに受験生なんだけど」

 言われてみれば確かに。勢いに任せて祥大の向かっている勉強机に、ぱんって手をついたあたしの手のひらには、参考書らしきものが下敷きになっていた。

 すると突然、祥大があたしの手首を掴んできた。大きな手は容易にあたしの手首を一周してまだ指が余るのか、他の指の上に親指が重なっているのがわかる。

 急になにすんのよ! こっちがびっくりするじゃない!!

 手首を始点にしてあたしの身体全体に、微電流が流れるような感覚が押し寄せてきた。

 そういえば、祥大に触れられるのって何ヶ月ぶりだろうか。

 怒っていたはずなのに、あたしったら言葉も忘れて、顔がじわぁーと赤らいでいくのを感じた。

 その姿を悟られたのか? 祥大が更に微笑していった。

 こいつったら、あたしの反応楽しむために、わざと手首を掴んできたんだ。

 ううっ、むかつくっ!

「なによ、気安くあたしに触んないでよ」

 キィっと睨みつけながら言ってやった。

「だってさ、そこ、その参考書の瑠花が手ついてるあたりって、マーカーひいたばっかだからさ。それでおまえの手の心配してやってるつーの」

「うそっ!」

 あわてて手のひらを確認したら、あーあ。ものの見事にピンクの蛍光色が手のひらに転写されている始末。かっこ悪いなあたし。

 それに、どうする?

 祥大の参考書が滲んでぶれたマーカーのピンク色でぐちゃぐちゃになってしまっている。

 祥大きっとすごく怒るんだろうな。

「ごめんなさい。そのページだめにしちゃった」

 素直にあやまるあたしの腰に、なんで?

 今度は突然腕をまわしてきた!!

 身体が祥大のほうに倒れこみそうになって、なんとか祥大の肩に手をついてバランスを保つことができたけど。もう少しで抱きついちゃうところだったじゃないの。

 あれだけシカトを決め込んでいたくせに、今日はなんでこんなにもあたしにかまってくるのよ。祥大ったら、なに考えてるんだか。有未香と別れたからって解禁とか思ってないよね?

 祥大とあたし至近距離にまで迫っている。祥大はこの後どうするつもりでいる?

 やばいよ、あんたの顔、あたしの心臓に近すぎなんだってば。ばくばく音を立ててる心臓の鼓動、祥大にばれちゃったらどうしよう。恥ずかしいよ、そんなの。

 デスクチェアーに座る祥大が上目遣いであたしの顔を見上げてくる。

 なんでそんな顔するのよ? 少し甘えたような表情みせたりして。きゅんってなっちゃうでしょ。あたしじゃなくても女の子ならみんなそうなっちゃうはず。祥大ってそういう顔もできるんだ。きっと女の子と接する機会が多いから、自然とそういう顔もできちゃうんだね。

 だって晴哉くんが言ってたもん。こいつめっちゃもてるんだって。

「なあ、参考書のこと許してやるからお詫びにコーヒー淹れてきて。ちょうど頭すっきりさせたかったんだよな俺」

 言い終わると同時にあたしの身体は祥大から開放されていった。

 うそ……ちょ、あたしの勘違いだっただけ。ただのうぬぼれだった?

 いったいあたしったら何を期待していたのよ、まったく馬鹿なんだから。



「あら、瑠花いつの間に帰ってたの?」

 美弥ちゃんが夕飯のしたくをするキッチンの傍らで、祥大のためにコーヒーを淹れているなんて。これってなんだかおかしくない?

 確かあたしは有未香のかわりに、祥大に抗議しに行ったんだよね? なのにどうして祥大のために一生懸命おいしいコーヒーを淹れようとしてるの?

 うーん、なんでこうなるかなあ。違うでしょ。

 祥大と係わると、どうしてかあたしはいつもいいように祥大に振り回されてしまっている。

 こんなんじゃ仮面兄妹のままのほうが楽でよかったのに。

 ううん、ちがう、そんなことない。

 あたしの本音は、祥大にかまわれたくてしょうがなかったんだよ。

 こうして始まった高3の春。




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