押し通す理論
『いや、その、助けたというのは……』
「何を助けたって? こいつの何を?」
「手助け程度の――ことさ」
妙に歯切れ悪く出してくれた言い訳はとても悪手だった。
「は?」
「シンスにも秘密があるように、こちらにも秘密がある、プライベート」
押し通す理論にシンスは敗北してしまう。
「秘密、ね」
そう言ってシンスは離れていった。
「危なかった」
「ゲームは危ないどころか、負けだけどな」
一瞬の油断が命取りなんだが、生半可なカードをコノハは出してしまった。
「そ、そこは譲渡するだろう!」
「真剣勝負の前では、事情なんて鞘に収めておくべきだ」
「くっ……」
「さあ、やってくれ」
事前に負けたら罰があるという約束だった。
「屈辱だ、女にこんなことをさせるとは」
「そうかもしれないな、こういうのは男の特権だからな」
「恥ずかしい……」
「勝負がもっと早く決まればよかったな」
そもそも、一発の罰ゲームが成立するまでズルズルと引き分けが続いたことが問題。
その時はガラガラだったんだが、今は美女が駄弁っている。
「くっ殺せ!」
「さっさとしろ」
コノハは渋々、この空間でもっとも目立つ場所に立った。
苦虫を噛みながら渋い柿を噛んだというくらい渋々しい顔をしていた。
『花はいずれ散る、いずれ枯る、お前はそれを見る』
ひらりと一枚の花びらが、コノハの眼前で舞う。
瞬きの隙間に切り際を隠して切り傷を残す。
光を残した花びらは雪溶けのように裂けて消えゆく。
「ちょっと! なにやってんの!」
周りの視線をちぎるようにシンスがコノハに近づく。
「これは……」
「こんなことしたら、傷が開くでしょうが!!」
コノハはめちゃくちゃ怒られていた。
「申し訳ない……」
こんなに自信が消えたコノハを見れるとは。
「誰にさせられたの?」
静かに指が俺を示した。どうやら売られたらしい!
「へえ」
案の定、シンスが近寄ってくる。
「母親みたいにかっかしないでください、遊んでいたのです」
「心配を無駄にさせないで?」
「逆に言うと、傷が開けば長く治療が」
「そんなこと、できるわけ!」
まさにキーっと響くような声で怒られてしまった。
『まあまあ』
ミストがふらふら助け舟を出してくれた!
「なに?」
『最近のコノハは落ち込んでたけど、すごく楽しそうにカード出してたよ?』
「……」
「本当に楽しんでなかったら、あんなに恥ずかしいことしないよー」
「わ、わかったわ」
シンスは仲間に弱いのか、ミストの言葉で簡単に引き下がる。
心配する気持ち自体は分かるんだけどな!
「助かった」
「まだ抜けて欲しくないだけー」
そう言ってミストが俺の手を取る。
そのまま、何もしていないのにミストが腕に巻きついた。
「な、なにしてるんだ?」
『大好き!!』
急に大声を出したミスト。
一瞬だけ美女に見られたが、なんとかセーフだった。
言われること自体はまんざらでもない。
「……おもしろいことになるよ」
そしてコソコソと教えてくれる。
「どういう意味だ」
「ふふふ…………」
敵知らずな笑みを浮かべるとその場を去っていった。
ミストが言っていた言葉の意味。
俺は身を持って体感することになる。




