悪手
幕が完全に下がり、全てが終わる。
口を離してルビーを解放する。
「にゃ、にゃあ…………」
「許してくれ」
暴れると思っていたが、ルビーは俺の手の中で静かにしていた。
立とうと動くとルビーが離れていった。
「え、エム!」
この一部始終をカゲに見られていたようだ。
「他の女と、キスするなぁっ!」
「シー、客に聞かれる」
『叫ばないと、カゲは耐えきれない』
カゲの目がキラキラと光る。
「泣いてるのか」
「カゲも、驚いて、いる……」
「落ち着け、泣くようなことじゃない」
「それでもカゲは悲しい、カゲは」
「ここを出よう」
カゲを連れて舞台裏に出た。
ここなら何が起きても問題はほとんどない。
「お、女の子泣かしてる……?」
俺が演出係に白い目で見られるくらいだ。
「そう言えば」
俺はしゃがんでカゲの足に手を当てる。
王女の衣装は足首まで伸びたスカート。
控えめにめくって紳士的に確認した。
「な、なにを」
「コケただろ、擦りむいたって言ってたからな」
しかし、見た限りでは怪我をしていない。
とても綺麗な、おみ足だった。
「咄嗟に考えたセリフを、真に受けるな……」
念の為、肘と顔周りも確認する。
「良かった、怪我がなくて」
「ジロジロ見られるのは」
「変に腹が立って、悪いことをした」
悪戯も度が過ぎればただの悪になる。
「カゲ、ごめんな」
「カゲは、どうしたらいい?」
「どうしたらって……」
『初めて謝られたカゲは、どう反応すればいいか分からない』
さっきまで流れていた涙はピタリと止まっていた。
「カゲが良いなら、俺を許してもいい。ダメなら許さなくてもいい、決めてくれ」
「許したい……でも、エムになにかして欲しい」
「カゲは俺に何をして欲しい?」
「あ、あくしゅ」
恐る恐る伸びた白い手を受け取る。
「これでいいのか?」
「カゲは満足した、このまま歩きたい」
涙をゴシゴシ拭い、歩こう?と手を引いてくる。
「衣装を返さないとまずい」
「この服で、エムとフラフラしてみたい」
「……そうだな」
カゲの行きたい方向についていく。
「どこに行くんだ?」
「ない」
本当にフラフラ歩き、劇場の方向に引き返す。
「散歩が楽しいと初めて思えた、エムのおかげだ」
「感謝は受けておこう」
劇場の裏に戻ると商人が。
「やっぱり着たまま行ってたのか! 借り物だぞ!」
「こ、これは……」
謝ろうとするカゲの言葉を俺は遮った。
「とてもいい服だったからな、カゲに無理を言ってこの辺を並んで歩かせて貰った」
「しっかり返してくれたら許そう、これは報酬だ」
それなりに膨らんだ金の袋を受け取った。
「猫耳族を無視して独り占めしてもいいが、物語のように上手くいくと思うなよ」
商人は衣装を着たまま向こうに歩き始める、やっぱりかっこいい服で歩きたくなってしまったらしい。
「エム、ありがとう」
「着替えてきていいぞ」
「そうする」
ふと、いつもいない存在に気づく。
ルビーが居ない。
幕が降りて真っ暗な劇場に向かうとルビーが静かに立っていた。
俺に気づくと分が悪そうに動きが乱れる。
「にゃ、にゃあ……うーー」
悩んでる様子でまごまごしている。
「報酬の方か!」
セリフはほとんどなかったが、動きは良かった。
「あげるぞー」
チャラチャラとルビーのお財布袋に溜まっていくお金。
「にゃあ!」
やはりそういう問題だったのか、注ぎ終えると両手を上げてバンザイ。
イエーイとハイタッチを交わした!
調子に乗って猫耳に触れたが、何も言ってこなかった。




