嫌がること
『街に火を放って地獄に変えたのは俺様だってことさ!!』
へっへっへと役を演じ切る商人。
「な、なんだとおお!?」
カゲもなかなかの悪役ヅラに驚いていた。
「生き残りも俺様がぶっ殺して遺灰にしてやるよ、もちろん野菜の肥料にするがなあ……へっへっへ」
商人だけ役が立ちすぎてるぞ!
剣を抜いてルビーと斬り合うが、何も知らないルビーの剣術にキンキンと切り伏せられていた。
「て、てめぇ! 強すぎだろうが!」
「にゃ?」
ルビーにここは負けるべきだぞと教えてみる。
「に、にゃああっ……」
腹痛に苦しむようにパタリと倒れていくルビー。
「あ、後はお前だけだぜ!」
この辺は適当に俺が勝利してルビーに駆け寄るんだよな。
「ぐ、ぐああっ」
「大丈夫か! ルビー!」
「ぐっ、ぐぐぐぅ……ぬあああっ」
「うるさいな! 黙って死んでろよ!」
この辺は見ていた女性にも指摘されていた。
「黙って死になさい、今の主役は二人だから」
「すみませんでした」
気を取り直してルビーに声をかける。
「…………」
「くっ、くそっ……許さないからな」
「にゃあ!」
喋ったらダメだぞと教えてあげた。
「はい、ここまで。朝にもう一度リハーサルするから、自分達で鍛えておくように」
女性はスタスタとその場を後にしていた。
「あまり、上手く行ける自信がないな」
「カゲも、自信がない」
商人は手応えを感じてそうだが。
「できるまで練習するぞ」
劇場を下りて夜まで裏でカゲと練習する。
リドルの意見を貰いながら調整を繰り返した。
『演技って、実際に経験した気持ちを持ってくると良いって聞いたな〜、好きだったら好きなものを浮かべるとか』
リドルのアドバイスをカゲに届ける。
カゲの言い回しは基本的に感情が見えてこない。
元々そうだが、演技でそれは明らかになった。
「ほ、ほう!」
「手応えはあったか?」
「聞いてくれ! 恥ずかしいが……」
オホンと間を取ったカゲが物語のとあるセリフを引用する。
『おちついて、きた』
キスされた王女はそう言って立ち上がるんだ。
「様になってきたじゃないか」
「今の好きだった、もう一回して」
「一回もしてないぞ」
「……そうだった」
カゲは役に飲まれていたようだ。
「エムも練習はいいのか?」
「充分しただろ?」
「キスの練習は一度も……」
「はっきりいって、角度次第でしたことにできる」
「ダメだ、客を騙すようなマネは」
「演じることも、騙してるぞ」
ムッと黙ったカゲは不満そうに睨んでくる。
「なんだよ」
「嫌いだ、エムなんか」
強く見せようとつま先で身長を伸ばしたカゲは、体制を崩して前のめる。
「おいっ!」
なんとか受け止めると口元に柔らかいモノが一瞬だけ残った。
「なんだそれ……」
「嫌いだから、エムが嫌がることをした!」
受け止めてやったのに、ふんっと俺を突っぱねて踵を返す。
何事もなかったように姿を消していた。
「これはリュウキが悪いよ〜」
リドルもカゲの肩を持つのか。
「よく、分からないな」




