カゲの要望
風すら居ない劇場。
『すっからかん、だぞ』
カゲは眠そうにあくびをしながら一言。
「なんで、なんで」
リドルにとって何もないことはショックだったようで、不安そうに俺を見てくる。
「生きてた時はどうだったんだ?」
「ここを揺らすような大声で話を進めてて、見る人があそこからあそこまでたくさん!」
白い指が指す範囲は劇場を覆うような広さ。
「そうか……」
不意に視線に気づく。
「誰と話している?」
カゲが不思議そうに見ていた。
『リドルだ』
「何処に……?」
指差すとわからないって顔をされる。
「そうだな」
青いメナスを首から下ろして両手に乗せてみる。
「これ、持ち上げてくれるか?」
「まかせて!」
メナスを持ったリドルがフラフラ動く。
傍から見れば、石が意志を持って動いたように見えると思う。
石だけにな。
「エムも魔法使いに……」
「違う、リドルがしたんだ」
「なるほど」
カゲはぺこりと頭を下げて挨拶してくれた。
「にゃあ?」
ルビーもカゲの真似をする。
「返すねー」
浮いていた石の紐が頭上で開きながら落ちていく。
俺の首に掛かって元に戻った。
『見つけたぞ! お前達!』
昨日の商人が走りながらやってくる。
「何か用か?」
「ここが歴史ある劇団の街ということは知っているだろう?」
「ああ」
「また劇を見るために協力者を集めてるのだが、まるで来ていない」
「どうして? 見たがる人は多いぞ」
俺も見てみたいし、死人のリドルすら見たがっている。
「それだ、見たい人ばかりでやりたがらない、劇の歴史を汚してしまうという言葉もある」
「ほう」
「そこで! 部外者の我々が手を組んで劇場に立とうと思う、お前達も手を貸してくれ!」
振り返って仲間の答えに委ねる。
「エムに任せる」
「にゃーん?」
「見たいからやって!」
誰かが喜ぶなら、参加するのも悪くないよな。
「協力しよう、なんでもする」
「そうか! 早速、人数に合わせた脚本作りに取り掛かる、次の夜明けまでのプランはこれだ!」
ピラリと渡された紙を受け取る。
「まさか、明日が本番?」
「仕方ないだろう?」
「そりゃあ、誰もやりたがらないな」
人差し指をデコに当て、帰ろうとする商人をカゲが引き止める。
「待て! 協力するにはこちらとしても要望がある!」
「言え、金の話もできる」
「あまり、大きな声では言えぬ」
カゲは商人と耳打ちで話し込み始めた。
どうせ、カゲのことだ。
脇役は嫌だから、メインをやりたいと言うんだろうな。
「ふむふむ、こちらとしては余裕の楽勝であるが、それはきっと恥ずかしいぞ?」
「承知の上!」
「ハードルも高いぞ?」
「わかっている……!」
分かりやすいな、カゲは。
「それでは失礼する」
下がっていく商人を横目に、プランに目を通した。
どうやら、今から演技練習の予定が入っているらしい。
「頑張るぞ、えいえいおー」
「……」
「にゃんにゃんにゃー!」
カゲは反応してくれなかったが、リドルは右手を上げてくれた。




