幽霊
謝る姿勢が全てを解決するわけではない。
反省は良い事、成長に繋がる。まあ、しない方が良い。
『……』
このように、カゲは何も言わずにルビーの隣に転がって寝てしまった。
一人は暇だ。
究極の一人は楽しかったが、持ち場を離れれない暇は究極の暇に近い。
あぐらを組んだ膝に添えていた手が、不意に冷える。
ひんやりと優しくない冷たさ。
顔を上げると恨めしそうな白い女が浮いていた。
「……ッ」
居るとは思っていなかった存在に距離を取りたくなる。
冷える正体は女の手。
「誰だ」
『この街で、この部屋で、こんな夜で』
女の唇は霧のように薄い。
『死装束を着せられ、今は死に小賊』
クツクツと歌う女はスッと泳ぐように近づいてくる。
『殺しはしない、代わりの罪も着せない、話を聞かせて』
「話?」
「誰も来なくて寂しいの、盗み聞きさせて?」
後ろに回った女が俺の方に触れてくる。
残り香の代わりにやたらと寒い冷気が押し寄せる。
「肩揉み一話」
「そうだな、どんな話が良い?」
「暖かい話」
剣で切り倒した木でキャンプファイヤーをやらされた話をしてみた。
「そういうのじゃなくて」
「違うのか?」
「甘酸っぱい恋の……」
「鯉か! 食べたことあるぞ、確かにあれは酸っぱかった」
「そうじゃない!」
後ろから急にビンタされて振り返る。
「それも違うのか……」
「死んだのに人を殴ったのはこれが初めてよ! 甘酸っぱいことしてるから出てきたのに」
「よく分からないな」
「はあ? 謝って!」
女にごめんなさいと謝ってみる。
「ごめんで済むなら、剣なんて必要なくてよ?」
「そうだな」
「正座しなさい」
先程までの冷える怖さとは一転、支配的な怖さが広がる。
「期待を裏切った罪でお願いがあるの」
「罪を着せないって……」
「シッツ!」
黙れと睨まれて静かにする。
「私、死んだの、殺されたの!」
「自殺と聞いているが」
「そんなわけ! ジェーンっていう女に殺されたのに! ありえない話だと思わない!?」
「で、お願いはなんだ」
女はツンとした様子でユラユラ揺れる。
「ジェーンを、殺して!」
「俺に触れるなら殺しに行けばいいじゃないか」
「ここから離れれないの」
幽霊なりの事情があるらしい。
「そうだな、捕まったらここで死んで仲良く話をしようか」
「仲間になってくれたら昔の話を沢山してあげる!」
「それは断る」
「なんでよ!」
先客の正体が幽霊と分かったので、安心してここを出れる。
「軽く行ってくる」
「寂しいから、早くしてね」
家を出てブラブラ歩いてみたが、夜は人通りが少ない。
当たり前だが、衛兵くらいは見回りをしていた。
殺しをする前に捕まえる側に話しかけるのは嫌だな。
情報は欲しいので妥協する。
「ジェーンという女を知らないか?」
振り返った衛兵に遅れて青いマントが揺れる。
『ここに来たばかりか?』
「そうだ」
『残念だったな、5年前に病気で亡くなったよ』




