幸せは奪える
『どうしたんだ?』
事情が分からなければ、打つ手も分からない。
「してはいけないことを、やらされた」
「そうなのか」
「エムは、怒るだろう」
なんとなくカゲの背中に触れてみた。
「知らなければ無罪だ、怒りはしない」
カゲの髪に人差し指を慎重に通す。
「すまない……」
「まだ動くな」
「ああ……?」
一番目立つ頭の頂点で、クルリと三角に丸まった髪の集まり。
横に二つ並ぶと猫耳みたいだ。
「ルビー、良い出来だろ」
カゲの肩を掴んで、ルビーの方を向かせる。
「にゃー!」
ルビーも両手を上げてカゲを歓迎していた。
「エム、なんの話を」
頭が動く度に髪の猫耳がユラユラ。
「そうだな」
近くの水溜まりにカゲを覗かせてみた。
ピョンと耳のように跳ねた髪に静かに触れて俺を見る。
『あまり、見てほしくない……』
周りをキョロキョロ見て、猫耳を手で隠してしまった。
「好きじゃないなら仕方ない」
「好き」
「そうか?」
「当たり前だ」
しかし、猫耳がオープンされることはない。
「好きなら見せてくれ」
「猫耳は好きじゃない……!」
「どっちなんだ?」
「アホ! もう解く!」
猫耳はパッパと解かれ、ルビーが残念そうにしていた。
「やはりエムは……」
文句があるようだが、カゲはいつも通りに戻ってきた。
「ようやく元気になったな」
「今回は礼を言いたくない」
「ああ、もう貰ったからな」
猫耳を貰って、何を望むというのか。
「……ありがとう」
「言うのか?」
「カゲの猫耳を礼だと思われるのは心外だ、見たいならいつでも見せてやれる」
「今見たいんだが」
「エム、しつこい」
じっとりと睨まれた俺は諦めることにした。
「カゲは嫌な気分だ、誰かに背負われたい」
歩き始めた途端に何か言い始めるカゲ。
「エム」
肩をツンツンされて無視できなくなる。
「なんだ?」
「背負え」
「イタズラするかもしれないぞ? 歩いた方が良い」
「カゲは知っている、エムが優しいことを」
脅しは効かなかった。
「歩くと昨日の悪事を思い出してしまいそうで、悪事を手助けした己が嫌いで……」
しゃがむとカゲが乗ってきた。
「しつこいな、カゲは」
「エムの背中に居れば、良いことしか起きなくなる」
「迷信だな」
あわよくば降りてくれないかと揺らしてみる。
『エムも、カゲの幸せを奪うのか……?』
そんなことを言われたら、何もできない。
「カゲも他の人から奪ったらダメだぞ」
「エムしか奪わないと誓う」
「……指切りの約束だぞ」
小指を近づけるとカゲも合わせてきた。
「エム、腹が減ってきた」
「そうか」
幸せの下は人で成り立っている。




