寂しそうな月
くつろげる部屋とは良い物で、気持ちが落ち着いてくる。
『にゃー』
ルビーも髪の匂いを執拗に嗅いでくる。
「にゃ!」
俺の体をペタペタと触れて何かを探しているような。
「……シャー!」
理不尽に威嚇された。
「何もしてないぞ」
不満そうにルビーはベッドに転がるとドラゴンの尻尾に身を寄せる。
捨てようと思ったが、捨て場所がなかったんだ。
「あんまり綺麗な物じゃ……」
触れようと手を伸ばし、威嚇されて諦める。
『…………』
一人というのは、地味に退屈だと気づいた。
流れる月に物思えば楽だと思っていたが。
視界から追い出したいと思ったのは、初めてかもしれない。
腹は立たない。光れる存在に惹かれる俺が悪い。
冷たい月明かりは冷たい鉄の鎖のようで、段々と触れたくなくなってくる。
窓から離れて夜明けを待つことにした。
夜が明ける途中で宿の受付にドアをノックされ、小さな話に付き合った。
どうやら、寝ない男として認知されているようだった。
『お願いです、寝ずに過ごす方法を教えてください!』
「寝た方が良いと思うが」
「彼氏とのデートが昼頃控えておりまして」
「寝ないことは美に悪い」
「しかし、しかしぃ! 楽しみ、なのです……」
俺は一時の為に睡魔を滅ぼす方法は知らない。
「分かった、寝たらいい」
「ひぇっ?」
「時が来れば起こす」
寝ている人間を起こすくらいなら俺にもできる。
「お願いします!」
代わりに俺が宿の受け付けをすることになったが、誰も来なかった。
約束通り陽が昇る頃に起こして部屋に戻った。
「ルビー」
揺らして起こしただけなのに、右手がルビーの犠牲になった。
「食うな食うな」
「にゃーー」
寝起きは気性が荒いらしい。
痛くない程度に加減はしてくれている。
「さっさと行くぞ」
宿を後にすると受付の人に感謝されたが、問題ない。
途中ですれ違う人が紙を捨てる。
「にゃあっ!」
紙に誘われたルビーが紙を捉えてわしゃわしゃと抱きしめる。
「見せてくれ」
シワシワになった紙は号外。一応、広げて見てみることにした。
『一日で家々から貴重品が消え去る!』
デカデカと書かれた話は、クエストワークで警備を頼む人が増えるだろうと書き加えられていた。
足取りも残さず消えていった財宝は相当な被害らしい。
「怖いな、ルビー」
「にゃー?」
ギルドに入るといつもの様にシンスが待ち構えていた。
『知ってる、一文無し』
にこやかな表情でシッシと払われる。
もったいないことにシンスは上機嫌だ。
左手の指という指に、指輪が通っている。
「コノハの状態は」
「………教えることなんて、何もないから」
冷たく返され、クレアも居ないのでギルドを後にする。
ギルドを出て、閉めたドアが何もない空間に当たって止まった。
振り返るとカゲがドアを閉め切って出てきた。
『エム』
一日振りに見たカゲは元気そうではない。
「大丈夫か?」
何も言わずに近づいてくるカゲ。
『エム……』
泣きそうな声で抱きついてきた。




