ごめんにゃさい
しばらく待つとシンスの隣に姿を見せたカゲ。
『ついて来なさい』
「なぜ」
「いつもの、分かってるかしら? いつものしまくりに行くの」
いつもの。そんな言葉を聞いたカゲの表情が険しくなる。
一瞬だけ俺を見て、何かを言いたそうにしていた。
「……」
「なに? その顔は?」
一触即発状態の隙間に割り込んでみる。
「邪魔」
俺の頬にビンタが一触即発した。
「体調が優れてなさらないので、今回は休ませてあげてはいかがでしょう」
「男は黙って!」
そのままカゲを引っ張ったシンスはギルドを出ていった。
「ちょっと寂しくなるな」
「うにゃー」
ルビーと目を合わせて同感だと逸らす。
クレアの近くに戻ってじっと見てみる。
「な、なに?」
「少し遊んだら戻ってくる」
「なんで戻ってくるの?」
「なんとなく、だ」
その場を去ったフリをして振り返る。
「しー」
人差し指を立ててルビーに教えると「しゃー」と人差し指を口元に寄せた。
充分近づくと、揺れるツインテールに踊らされるルビーが手強い。
素早く繰り出されるパンチを俺が止めないといけない。
「しー」
パンチが収まり、ルビーが手を丸めて両目を隠した。
『ごめんにゃさい……』
猫耳がパタパタと頭を下げていた。
撫でて許してから、クレアに攻撃を仕掛ける。
両手でクレアの視界を後ろから奪い、決まった言葉をかける。
『だーれだ?』
俺より先に聞こえた声に振り返る。
『ふふふ……』
「だ、誰? あいつは男なのに……」
コップを粉砕したミストの加勢でこれは勝てる!
『誰だと思うー?』
「まさか、ミスト?」
『はい、オープン』
俺が手を離すとミストは俺の後ろにピッタリと隠れ、クレアが遅れて振り返った。
「え、あんたの声きもいんだけど」
俺だけ大ダメージを受けた。
「いや、ミストだぞ、なあ!?」
振り返るとミストは居なかった。
「うそつき」
「くそっ」
ルビーが挽回しようと「にゃあにゃあ」説得してくれたが、猫語は票数に入らない!
「いや、あれはミストだって……」
真実を伝えようとしていると。
「どうしたの?」
ミストが現れる、犯人が犯行現場に戻るのは本当らしい。
「こいつがミストに騙されたって」
「なにもしてないよ?」
あれ?って雰囲気を作り出すミスト。
「やっぱりあんたじゃない」
「なんだと……」
俺はヤケ酒としてコップに酒を注いで飲み干した。
もう一度注ぐとミストに呼び止められる。
「ちょーだい」
「構わないが……」
ごくごく飲んでプパーとひと息。
今度はコップを粉砕せずに戻してくれた。
「しつれーい」
フラフラと去っていく姿は不安定な嵐のようだった。
「まあ、飲むか」
「ダメ」
クレアにコップを没収された。
「そうする」
「そろそろ、行こっかな」
カタンと席を立ったクレアがギルドを出ようと歩き始める。
『ぼーっとしてないで、さっさと稼ぐよ』
一度だけ振り返って残した言葉。
ルビーの手を引き、急いで足並みを揃えた。




