天地幸福
カゲが離れたのは部屋のドアが開いたこと。
『リュウキ!』
ソランの登場に慌てたカゲ、透明になればいいだけなのにそそくさと離れていった。
気にしてないような顔をしているが、そう思えない。
「なんだ?」
「ギルドに戻ってきて!」
「それは、できないな」
「なんで? なんでよ」
「分からないなら、素直に諦めたらどうだ?」
「……また来るから!」
そう言ってソランはバタンと強くドアを閉めて出ていった。
「素直に金くれって言ったらあげるんだが」
「エム、ソランが分からないことはなんだ?」
「それか、ホウセンカに入る時まで持っていた剣だな」
最強の剣と言われてソランから渡され、当の本人のワガママ冒険を常に切り開いた代物。
涙は染みなかったが、無茶振りに血と汗は染みた。
「そんな剣が消えたことに何も言ってくれないのは不思議な気持ちになったぞってな」
「ああ、カゲならすぐ気づく」
「そうか?」
食い気味に当たり前だと言われた。
小さな話をしているとルビーがくあっとあくびをしながら起きてきた。
寝起きは辛いだろうと少し待って宿を後にする。
「忘れてたんだが、受付の人から温泉の件で報酬を貰った」
「エムに権利がある」
三等分して、ルビーには直接袋を上げた。
「にゃー」
「ポケットのコインも入れて置いたらどうだ?」
一枚のコインを取り出して袋に近づける。
「にゃ、にゃー!」
ダメだと言わんばかりにシュッと取られ、気がつくとポケットにコインが戻っていた。
「にゃあ〜!」
ルビーには大切な一枚だったようだ。
「すまないな、もうしない」
三等分といえば大抵、一枚余る。
俺はしゃがんでその場にコインを置き、中指で押し付けながら呟く。
『天地幸福』
すっと立って何事もなかったように歩いた。
「なんだ? それは?」
「海を見る神、空を見る神、そしたら地面を見る神も居るだろ?」
「ああ……」
「地面は大切だ、神様におねだりしておくことも大切と言える」
「カゲもしよう」
パチンとコインを床に押し付けたカゲ。
『エムに幸福を』
スッと立てばいつも通りに戻る。
「俺は神じゃないぞ」
「エムは大切、ならエムの幸せを願うことも大切と言える」
「オウム返しか」
「思いも返した」
「返す言葉もない」
途中で朝食を取った。
メニューは健康的におにぎりセット。
食べ終えてから今日こそはと、ホウセンカへ。
「よし、カゲは透明に、ルビーは……」
ルビーの手を握ると「にゃあ」とポツリ。
「しー!」
人差し指を立てて息を吹くとルビーも真似て、にゃーと人差し指を立てる。
「…………」
猫耳が探るようにゆさゆさぴんぴん動く。
「静かにできて偉いぞ!」
どさくさに紛れて猫耳を撫でると、うにゃうにゃ文句を言われた。
「エム、見苦しい」
「そうだよな……猫耳の触り心地はかなりいいんだが」
『カゲも猫耳ならば、作れる』
「そうか?」
「そうだ」
「そうか……?」
「そうだっ!」
き、気を取り直してギルドに入る!
文句ありげな視線が怖いが、ギルドの中でカゲが喋れないことは知っているからな!
『ちょっと、コノハ見たかしら?』
入るや否や、シンスがじわじわと俺を見た。
「見てません」
大きくため息をついたシンス。
このタイミングしかないとお金の報告。
「少ない!」
パチンとビンタされ、気持ちよく痛みが引く。
ルビーが心配そうに俺の頬に触れてきた。
「…………」
「大丈夫だ」
俺とは対照的に不満そうなルビーを撫でてその場を流す。
「心配で仕方ないわ……」
不意にガチャりとドアが開き、美女の視線が集まった。
『サクラ・コノハ、ただいま戻った』
パタンと閉まるドア。
血だらけでボロボロのコノハは、パタンと倒れた。




