不意打ち
両手に集めた湯をカゲの白い足に注ぐ。
足の甲から上へ上へ。
『……』
チャラチャラと落ちていく湯の音が響いた。
「なにか言えよ」
「好きだ」
「そうか」
「か、かけ湯のことで」
「分かってるぞ」
ムスッとされ、よく分からないと考えを改める。
「そろそろ、受付の人呼ぶか」
「待て」
出ようと動くとカゲの手が阻んでくる。
「もう少し、楽しみたい」
「楽しんでたらいいだろ」
「エムと、楽しみたい」
「どうやって楽しむんだ?」
こうやって楽しむ。カゲはそう言って指先を湯に付けると俺の方に手を仰いだ。
散った濁り湯が衣類に触れて黒い染みを残す。
「……」
「すまない、怒らせてしまった」
「怒ってないぞ」
どう返したらいいのか、分からなかった。
「これに対して、俺はどうしたらいいんだ?」
「反撃とか色々、見てきた」
「カゲは、反撃されて嬉しいか?」
「分からない、返されたことがない故に」
咄嗟にカゲに湯を掛けてみる。
『きゃっ』
驚いた様子で両手をクロスさせていた。
「そんな声でるんだな」
「……」
そのまま顔を隠したカゲは何も言ってくれない。
横から見てみると微かに頬が赤い気がした。
「悪いことしたな」
クロスした手と一緒に体を横に振られる。
悪いことではないらしい。
「嬉しかったか?」
コクコクと頷いてくれた。
「そろそろ手を下ろしてくれよ」
カゲの手をそれぞれ握って開こうと力を加えてみる。
意外にあっさりと開かれ、そこには唇を丸めたカゲが。
「不意打ちされたのは、初めてだ」
ポツリと呟いたカゲは湯に体を向け。
「そうなのか?」
「消えさえすれば常に不意を打つ側、故にされて分かったことがある」
「なんだ?」
「あまり、良い気がしない」
「だろうな」
「こうすれば、不意打ちはできまい」
そう言ってピッタリと体を寄せてきた。
「できないな」
「ふふふ……」
不敵に笑う姿に何かを誤魔化される。
「そろそろ、呼ばないとな」
「あぁ……」
「また、浸かりに行けばいいだろ?」
足を湯から抜いて靴を履き直す。
「にゃ!」
ルビーが俺に気づいてひと足早く立ち上がった。
「居ていいぞ」
「にゃあ!」
靴を履かずにぺたぺたとついてくるルビー。
このまま帰れと言うのは、揺れる猫耳に申し訳ない。
「よし、運んでやろう」
素足は危ないからな! 森で歩くとは訳が違う。
「にゃー」
ルビーを両手に収めてクエストワークに向かった!
『準備はしてましたよ!』
受付の人は両手に靴を持っていた。
「気が早すぎる」
「そ、そうでした」
カコンと靴を床に投げ、そそくさと履き直した。
「では、行きましょう!」
淡々と姿勢よく歩く受付の人。
靴のかかとは潰れていた。




