久々
クレアは酒をゴクゴク飲んでいた。
『暖かい椅子は売れる、間違いない』
どうやら、椅子として俺を評価してくれているみたいだ。
「……非売品なのが残念」
「無料で売られてもいいぞ」
「そうじゃなくて、あんた彼女居るでしょ?」
「かのじょ?」
右を見ると透明なカゲ。
左を見ると元気なルビー。
「ああ、ルビーのことか」
「違うの?」
「違うぞ」
「こんなにかわいいのに」
両手を頭の上に乗せたクレアは猫耳のようにヒラヒラ。
「にゃーにゃーって、すれば結構かわいいでしょ?」
「確かに、かわいいな」
俺が思う以上に猫耳というのはかわいかった。
「にゃー」
ルビーも頷きながら口を開いた。
「ほら、にゃーって……にゃー?」
「にゃー!」
「え?」
クレアが俺を何度も見る。
「まさか、猫耳族?」
「そうだぞ」
「大人しくない?」
「普通」
「凄いわ」
よく分からないが、褒められたので頷いておく。
「じゃあ彼女は居ないんだ」
「そうだな」
「ふーん」
「悪いか」
この街では強い男は限られているらしく、それなりに需要があるとクレアは言ってくれた。
「シンスは女の人と恋愛してるし、男は減っていきそう」
「クレアも女が好きなのか?」
「そんなわけ、だからまあ、あんたの彼女になってあげてもいいって話」
『断れ、エム』
不意に響いた声にクレアがキョロキョロ。
「え、誰?」
透明なカゲが後ろから酒臭い息を耳元に掛けてくる。
『エムはカゲのモノで、エムのモノはカゲで……』
酔ってるのか、ポツリポツリと俺の返事を待たずに口を開く。
「な、なんなの?」
「カゲだよ」
「カゲってシンスの前に現れるカゲ?」
「そうだ」
「あんたの友達だったんだ……うわっ」
クレアの声に釣られて振り返ると、カゲが姿を表していた。
俺の肩に手を置いて目を閉じている。
「多分、寝てるな」
「立ったまま……?」
「そうだな、降りてくれるか?」
クレアに降りてもらい、カゲを支えながら席を立った。
「座らせて置くのは可哀想だ」
「だからって帰るの?」
「そうなるな、久々にクレアとピッケルで大金を稼ぎたかったが、仕方ない」
「じゃあ、ね」
カゲを両手に抱えて酒場を後にした。
ルビーが「にゃあにゃあ」と並んでくる。
「本当に酔い潰れるとはな」
「にゃー」
こんな状態のカゲを連れてどこかに行くのも良くない。
宿屋で部屋を借りることにした。
「にゃ、にゃああ……」
「金はあるからな? そのコインは持ってていいぞ」
部屋に入ってベッドにカゲを寝かせた。
カゲを置いて仕事をするのも悪い気がして、夜までルビーと遊ぶことにした。
「にゃ!」
手首をガシッと掴まれ、ルビーの顔が近づいてくる。
「くっ、力強いな……」
為す術もなく、ルビーの白い頬で人差し指がスリスリされてしまった。
「にゃあ、にゃあ」
高い声はルビーなりの甘え方、かもしれない。
人差し指を舐められて頬擦りされても、不思議と嫌な気はしなかった。
「まあいいか」
遊んでいる間に陽が落ち、月が姿を見せる。
窓から差し込んだ月明かりに顔を晒されたカゲは。
『うぅん……』
嫌そうに唸っていた。




