知らぬが仏、知られぬ乙女
『そうか?』
「そうだ」
よく分からないが、カゲは不満らしい。
「何かあるなら言ってくれ」
「ない!」
「そうか」
「そこはもっと聞き返すなどの……」
「押してダメなら引いてみるんだよ、俺は」
「押し時を知らぬ愚者め」
めちゃくちゃ煽られた気がするんだが。
「にゃーにゃー」
「どうしたんだ?」
ルビーがトランプを見様見真似でシャカシャカシャッフル。
束ねたカードを裏向きに置いて俺を見る。
「にゃ!」
楽しそうな顔で見つめてくる。
「これでいいのか?」
五枚のカードを取って手札に加えると。
「にゃあ」
ルビーも五枚取った、どうやらゲームがしたいらしい。
「仕方ないな」
「にゃっとー」
カードを伏せてめくるゲームは俺の全勝だった。
ルビーはルールを知らないから無理はない。
『にゃ、にゃあぁ……』
うるうると涙を貯めてポケットをゴソゴソ、さっきあげたコインをプルプル伸ばしてきた。
「このお金は俺の物、か」
「にゃー……」
受け取って手のひらで眺めてみる。
「じゃああげるよ」
「にゃあ!」
ルビーのポケットに戻してトランプを片付けた。
「エムは優しい」
「そうでもない」
透明なカゲが近くに居る、どこか分からない。
「遊びは楽しかった?」
「ああ、悪くない」
「ふふふ」
右耳から聞こえた声色はこそばかった。
盗賊遊びを楽しんだ俺達は地下の部屋を後にして地上に出た。
この辺は夜にカゲを背負って出てきた場所だ。
明るいと暗いでは、雰囲気が変わるらしく、ひと目で分からなかった。
「エム、お腹は……なんでもない」
カゲはルビーの肩をトントンと叩いた。
「お腹、空いただろう?」
「にゃー?」
透明なカゲの声に気づいて右側を向いて首を傾げる。
「にゃーじゃない、空いたと――」
「にゃー!」
カゲの猫真似を気に入ったのか、ルビーはピッタリと抱きついた。
「……エム」
「なんだ?」
「お腹が、空きました」
「素直で良いと思うぞ」
カゲが食べたい物を考えてみる。
……思いつかなかった。
「さ、酒が飲みたい」
「良いんじゃないか」
「止めたりは、しない?」
『昼間から酔いつぶれようが、俺には関係ないことだ』
「……潰れてやるっ」
そう言って俺の手を引いて走り始め、ブランドの店に着いた。
本当に酔い潰れたいらしく、カウンターにどかっと座っては酒を示した。
隣に座って見守りながら、ルビーを見てみる。
自身のお腹を撫でてしょんぼりしていた。
「おっさん、美味しいやつないか?」
「おっさんじゃない、ブランド」
「ブランドさん、なにか頼む」
「小馬鹿にしてるのか?」
してないと首を横に振る。
「まあ、すぐ構えよう」
少し待つと本当に食べ物がやってきた。
大皿に二つのでかいパン。
「文句は、言わせない」
「助かる」
「にゃすかる!」
一つをルビーに取らせ、大皿ごと隣の席に回す。
「空きっ腹に酒は最悪だからな、早く食え」
『……エム、ありがとう』
直後にパンが大皿ごと透明になっていた。




