ごちそうさま!
女性は顎に手を当てて僅かな沈黙。
『にゃー、というのはどういうことですか?』
正直に言わないと美味しいものができないかもしれない。
「猫耳族の友達なんだ、そうだよにゃー?」
生半可な発音が気に食わなかったのか「にゃ! にゃ!」と怒られた。
「なるほど、猫耳族に関する資料は少ないので完全な予想で作らせていただきます」
「頼む」
俺達は座って料理ができるのを見ていた。
下から調味料を出して、向こうに引っ込んだ女性が食材を持ってくる。
「これは?」
「魚です、この辺に海はないので少し貴重ですが」
「ほう……」
「猫には魚というイメージがあったので」
「同意する」
それから鉄製の網に魚を寝かせ、下に火を入れる。
チリチリと焼けていく魚に白い粉を振っていた。
「これは?」
「塩です、うるさいですね張り倒しますよ」
「すみません」
黙って見るか、カゲと会話することにした。
「カゲは盗賊の中では偉い人なのか?」
頷くといつの間にか取り寄せていた飲み物を傾けていた。
「いいな、それ」
「飲みたいか」
「ちょっとは……」
カゲはコップをカタンと置き、何も言わずに滑らせた。
綺麗に俺の前でコップが止まる。
「飲んで、いいから」
そう言ってカゲは背を向けた。
「ああ……良いのか?」
「半分ずつ、なら」
飲んでいいなら、ありがたく頂こう。
「……」
口に含んでコップを置く。
酸味を感じながら、喉に逃がした。
「飲んだぞ」
「エム、どうだった?」
「悪くはない」
席を立ったエムが確かな足取りで近付いてくる。
「どうした?」
「それ、飲ませて」
「酔ってるのか?」
「カゲは、酔ってるかもしれない」
顔が赤いし、酔っててもおかしくないな。
「飲みたいなら、手伝うが」
コップをカゲの口元に近づける。
咥えたことを確認するとコップを傾けて、カゲの口の中に注いでいく。
ちょうど一口でなくなった中身。
空になったコップを置いて聞いてみる。
「良かった……」
「そうか」
カゲは元の席に戻っていった。
『にゃー、にゃー』
今度はルビーが暇そうに見ている。
そうか、俺と一緒で何も頼んでないんだよな。
「飲み物って頂けるのか?」
「ええ、美味しい酒や果実の絞りならおまかせを」
「ならば、美味しいお水を二つ、頂こうか」
俺は肘を着いて二本の指を立てた。
「ええ……」
女性は不思議そうにしゃがむと二つのコップと片手で持てそうな樽を持ってきた。
コップに水を注いで俺のところに二つ。
樽も置いてくれた。
「どうぞ」
なるほど、飲み放題らしい。
「助かる」
ルビーに近いコップを渡す。
「にゃー」
「待て待て」
飲むのは早いぞと手のひらを見せる。
「にゃー?」
ルビーの持つコップを俺のコップでカチンと叩いた。
「乾杯、だぞ」
「にゃんぱい!」
一口飲むとルビーもごくごく飲んでいた。
「にゃー!」
おかわりってことらしい。
「早いな……」
樽を持って注いであげるとごくごく。
「にゃ!」
ごくごく。
「にゃ!」
もうダメだと首を横に振る。
「にゃあ……」
「そろそろ、できますよ」
大きな皿に乗った魚は綺麗に焼き色が付き、良い匂いを残す。
「素晴らしい」
「当たり前のことなので」
女性は俺に厳しい。
魚の皿がコトリとルビーの前に置かれた。
「にゃーあ」
ルビーはぺこりと頭を下げてお礼を言った。
両手で魚を持つと大胆に頭から食べ始める。
「好きな食べ方でいいと思うぞ」
「さすがにワイルドが過ぎると思いますが」
「俺もあんな感じで食べる」
「え……」
スッと引かれてしまった。
「剣を握ってると魚なんて外でしか食えない、そこには食器類なんてないんだ」
「なるほど……」
「俺は腹から食べるけどルビーは大胆だな、好感が持てる」
どこが?って顔をされた。
そんなことを言ってる間にルビーは魚を尻尾まで食べ終えた。
何も残ってない皿は食べる前みたいだ。
「ルビー、手を合わせるんだぞ」
俺が手を合わせると真似てパチンと鳴らす。
「ごちそうさまって言うといいぞ!」
「ごちそう、さま!」
「偉いな!」
しっかり言えた勝利の美酒は樽に眠る美味しいお水。
注いであげると美味しそうにごくごく飲んでいた。
「ごちそうさま!」
「それは食事だけだぞ」
「にゃ、にゃあ?」
ごちそうさまと言えばおかわりが貰えると感じさせるのは良くないからな!
「で、うまかったのか?」
「にゃまかった!」
「そうかそうか」
ルビーが満足してくれたなら、俺も嬉しいな。
「エム、帰ろう」
「早くないか?」
「少し、体が」
「帰るか」
声に強さがないカゲはフラリとしていた。
「大丈夫か?」
喋りたくないのか、首を縦に振る。
「大丈夫じゃないな」
俺は座ったままのカゲに背を向けて、微かにしゃがんだ。
「行き方すら分からなかったのに、気を失われたら帰り方まで分からないからな」
「……ああ」
「俺ができることはこれくらいだ」
カゲを背負った俺は耳元で囁かれる声を頼りに帰ることにした。




