クレア
唐突な無理難題を押し付けられ、ゾクゾクする俺。
「頑張ります!」
「クレア、彼のサポートをしてあげて」
ツインテールの女の子がめちゃくちゃ嫌そうに唇を尖らせた。
「マジ?」
「大マジ」
「嫌なんだけど……」
「アレするだけじゃない」
「はーあ、」
シンスに説得されたクレアが俺を横切る。
『何ぼーっとしてんの? さっさと稼ぐよ』
俺はクレアを追ってギルドを出た。
「あんた、名前は」
「リュウキ」
「そう」
街をクレアの足並みに合わせて歩く。
「とりあえずこれ持って」
荷物係と言わんばかりにクレアが身に付けていた装備を持たされる。
カバンや魔法道具の数々、これがなかったら魔法は使えない。
重い、だが悪くない!
「男って嫌いなんだよね」
「……」
「なんでホウセンカに来ちゃったかなあ」
「それは――」
『あんたの理由なんて求めてないから』
理不尽に素っ気なく言葉を切られ。
クレアに付いていくとクエストワークに入った。
「依頼」
色んな冒険者が居る。
「……だから、依頼」
クレアが顎で俺を指示する。
「何を受けたらいい?」
「なんでもいいからさっさと取ってきて」
荷物も持たされている俺が依頼書を適当に漁る。
貼られた紙を取るだけで受注は完了。
その内容に応えた証拠を持って行けば、報酬が貰える所も前の街と一緒。
「で、何取ってきたの」
「まずは」
「あのね、紙をくれない?」
依頼内容を教えるつもりが、クレアに紙を奪われてしまった。
トントンとつま先で床を叩いていたクレア。
『バカなの?』
紙を読んでから、俺を見上げているのに見下している。
「ドラゴンを二人で倒せるわけないじゃない」
「ソランと倒せたから」
「まさか、本気で100億稼ぐつもり?」
至って真剣だと頷く。
「可哀想だから教えてあげるけど」
長いため息と一緒に俺を睨む。
『本当はコノハに殺されて終わりだったのよ』
殺されなかったらそれでいいじゃないか。
「なまくらソードで生き残ったのは褒めるけど、真面目にするだけ無駄無駄」
「クレアも俺が居るのは嫌か」
「……嫌に決まってるでしょ、言わせないで」
「じゃあ居よう」
「はあ?」
嫌われてるのも悪くないからな! 言わないけどな!
「きもいきもい、さっさとドラゴンの餌になればいいのに」
クレアが悪口を残して銀色のツインテールを揺らす。
クルリと背を向けて歩き始めた。
「はやく!」
「言いにくいんだが」
「なに、のろま」
意を決してクレアに言う。
「ドラゴンが居る草原は、その方向じゃない」
『……死ねば』
ナチュラル罵倒、感謝します。
ドラゴンが居るという草原に足を踏み入れて探索する。
この辺は静かな所で同業者は居ない。
ドラゴンが居るという依頼が貼られたら、行くわけないか。
『うわ、きも!』
代わりに魔物が居る。
「そうか?」
「あんたが倒して!」
本当はモンスターの攻撃を受けて気持ちよくなりたいのだが。
クレアに言われて仕方なく、本当に仕方なく。
魔力で変異してしまった大トカゲを剣で切り捨てた。
「なんで攻撃受けたの?」
簡単に避けれるのにって言われて。
「痛みに怯える者に、他者を痛める価値はない」
適当に誤魔化した。
「そ、そうなんだ」
通用したので良しとする。
草原でドラゴンを探してしばらく。
俺達はついにドラゴンの寝床を発見した!
「うおお! やったな!!」
『肝心のドラゴンは居ないけどね』
クレアはノリが悪い。
「……どんまい」
「別に落ち込んでないし」
「強がらなくていい」
ポンとクレアの肩に手を乗せてみる。
「本当に落ち込んでないから!」
落ち込んでないならいいか。
「っていうか馴れ馴れしいんだけど」
「悪かった」
手を引いて両手で降参する。
「二度と触らないで」
「そうする」
荷物は持たされてるのに触るなという理不尽。
「平気な顔してるのもムカつく……」
不意に風で周囲の草木が揺れ始める。
カサカサと擦れる音とブオンと薙ぐ音。
見上げると赤いドラゴンが舞っていた。
「で、でか……」
クレアが風に仰け反るように数歩下がる。
着地したドラゴンが俺達に気づく。
空に顔を向けて赤い光を喉に貯め始めた。
やばい! ドラゴンブレスだ!
クレアの方を向いているが、本人はブレスが来ると気づいてない。
ゴウゴウと唸る存在からクレアを守る為に、俺はドラゴンに背を向けて立ち塞がった。
「ちょ、ちょっと?」
「動くな」
「はあ?」
『動くな!!』
吐き出される炎からクレアを守る。
綺麗な髪が焦げないように、白い頬が焼けないように。
なけなしの鎧を溶かすような熱い炎を。
気持ち良く耐えた。
熱くならないように、留まった熱を手で払う。
「背中が気持ちいいな」
クレアがなんか見てくる。
「触ってないからな」
「それは、知ってる」
「じゃあやるぞ」
新しい剣を抜いてドラゴンに飛びかかる。
『グオオ!』
爪の攻撃を弾いて膝をつく。
押し潰されるかもしれない力比べをドラゴンと繰り広げた。
「大丈夫?」
「ああ」
押し返して、追い討ちのドラゴンブレスを左に飛び込んで避ける。
「もう、下がって」
「下がるわけないだろ」
「なんで」
気持ちいいから! なんて言えない。
「俺が下がったら、クレアはどうするんだ」
振り下ろされる爪を避ける。
ドラゴンの頭突きを至近距離で交わし、ドラゴンの耳を掴んだ。
『わからない』
ドラゴンが顔を振り上げて俺を空に投げる。
倒すことは無理だが、倒した証拠は欲しい。
クレアの魔法道具を拝借して空中を簡単な風の魔法で進む。
「こ、こないでっ」
『グウウ……』
クレアが襲われてしまう前に落下する。
落ちていく力を利用して、剣を振って尻尾を斬り裂く。
着地すると遅れてズシャッと肉がちぎれ。
俺の目の前でゴトリと落ちた。
『ガアアア!!』
ドラゴンが痛みに叫んで空に羽ばたいていく。
しばらく帰ってこないだろう。
「立て」
クレアは座り込んでいた。
「立てない……」
そんなクレアに近づいて手を貸す。
「いや、触ったらダメか」
俺は赤黒くなった剣を逆手に持つ。
「ほら」
余った持ち手をクレアに貸すことにした。




