ルビー
グルグルという音が響く。
『……』
猫耳族は腹を空かしていたんだった。
「もう少しで着くから、耐えるんだ」
本当はもっとかかるが、優しい嘘も仕方ない!
「にゃあ……」
無理だと首が横に振られ、猫耳がパタリと倒れた。
『エム、これを食べさせたらいい』
後ろを向いたままのカゲが、棒状の包みを渡してきた。
「なんだこれ」
食い物に関しては食わなくなったせいで疎くなってしまった。
「油を甘く固めた嗜好品だ」
「なるほどな」
猫耳族に回すと開け方が分からないようだった。
「師匠、しっかり教えてあげるべき」
俺もそんなにわかってる訳じゃないが、一旦お菓子を没収する。
「今回だけ、開けてやるから」
「にゃ」
爪で袋をカリカリ撫で、包みを浮かせる。
ペリペリ剥ぐと甘い匂いが届いた。
猫耳族の口元に近づけると匂いが伝わったらしい。
「にゃー、にゃー」
お菓子を持つ手に、白い手を重ねてきた。
「食べていいんだぞ」
お菓子を咥えた猫耳族は残りをパキッと折って顔を離す。
隣に居るだけなのにポリポリと良い音が聞こえる。
「……」
猫耳が忙しなくバッタバタ動く。
『にゃあ』
今までになく高い声で頬を緩ませる。
「よかったな」
残りのお菓子を剥いたのに、手が俺の方に返され。
「にゃ、にゃ!」
口元まで持っていかれた。うまいから食えということか。
とりあえず小さなひと口を貰ってみる。
「にゃ?」
「うまいな」
かなり甘い。しつこいくらいだ。
やることを終えた時に食うとちょうどいいんだろうな。
「にゃまい!」
肯定すると続きのお菓子をねだられ、全部食べさせてあげた。
「にゃまーい!」
猫耳が倒れては起きるバンザイ状態。
カゲのおかげで元気になってくれた。
「にゃあ……」
相当良かったのか、カゲをキラキラした目で見ている。
カゲの方が師匠っぽい。
「エム、そろそろ着く」
俺の方を見て言うカゲは猫耳族の視線に気づかない。
「ギルドクエストは、クエストワークで報告することになっている」
その言葉を元に、街に戻った俺達はクエストワークで受付に報告した。
『確認が取れ次第、報酬をギルドに送ります』
カゲが言うには報告したことをホウセンカに報告しないといけないらしい。
そんな訳でギルドの前に来た。
「カゲは闇にて後を追う」
ヒュッと透明になるカゲ。
「よし、待っててくれよ」
「にゃ!」
俺はギルドに入り、ガラガラな空間を眺める。
どうやら、俺達のように依頼を受けた美女がちょうど出ていったらしい。
『あら、お早いこと』
たった一人残っていたシンスが、丁寧な言葉で迎えてくれた。
「クエストワークで報告してきました」
「虚偽だったらギルドの信頼に関わるから、気をつけて?」
「はい」
「そう、ところで……」
シンスがピッと人差し指を向けてくる。
それは、俺を逸れていた。
『誰かしら?』
振り返ると猫耳族が!
なんでついてきたんだ! 待ってろって言ったのに!
「に」
その先を喋らせない為に俺は口を塞ぐ。
猫耳がフラフラーっと揺れる。
言葉が、分からないんだったな。
「こ、こいつはあれです!」
「あれって?」
「ルビーって言うんですが、最近仲良くなったんです!」
「その耳は?」
「つけ耳です」
ルビーの耳をわしゃわしゃ撫でる。
「にゃ、にゃ……」
「なにか聞こえるような」
わざとらしく声を重ねる。
「いやー! きのせいです! ルビーの依頼が残ってるので失礼します!」
「そ、そう……」
駆け足で俺はギルドを後にした!
「……ふう、バレなかったな!」
「エムは嘘が下手だ」
聞いてなかったことにしよう。
「にゃあ……」
「ルビーは悪くない」
ヨシヨシと耳を撫でる。
「にゃっ」
くすぐったいのか、撫でる度に声を上げた。
それからすることもないので、何かを食べようと俺達は動くことにした。
ルビーもお腹が減っていないわけではないはずだ。
「エム、ルビーという名前をあげたのか」
「シンスに聞かれたからな、咄嗟に」
『やっと見つけた!』
唐突に聞き覚えのある声が前から聞こえる。
タッタッと走ってくる金髪の虹色ドレス。
自然界の危険色に、すれ違う人は自然と避けていた。
俺達の前に立つ頃には、はあはあと息を切らす。
「そ、ソラン……!」
「困ってるんだから! さっさとギルドに戻って!」
振り返るとカゲとルビーは消えていて。
『エム、友との再会を楽しめ』
という言葉が聞こえた。
「困ることってあったか?」
「金テーブルの借金、ご飯、いつもの……あなたがやらないと誰がやるの!!」
「他のメンバーは?」
「あなたの行動待ちよ」
そうなのか。
「とりあえずいつものが足りない! ここの酒場に案内して!」
「あぁ、いいぞ」
「疲れたから背負って」
「何も変わってないんだな」
俺が背を向けてしゃがむとソランが倒れてくる。
よいしょと背負った俺は酒場に向かうことにした。




