猫耳族
ドゴォンと腹に刻まれたパンチ。
痛いな、痛いよ。
『にゃー!』
頬にめり込む拳は甘い。
若い猫耳族はまだ未熟な攻撃力のようだ。
「すまない」
右ストレートを避け、手首を掴む。
「ニャッ!?」
「ここは中指って言うんだが」
握り拳の真ん中を人差し指で触れる。
「これは提案だ、このように中指を突起させて拳を作れば致命的な致命傷を与えやすくなる」
左手で実演して中指の間接を目立たせると猫耳族も真似をしてくれた。
「よし、これで頼むぞ」
手を放すと約束通りのパンチが届けられる。
痛くて気持ちよくなったが、威力は足りず。
スッキリしない、切れ味が少ない。
飛んできたパンチを掴んで、正しいスタイルを教える。
「もう少し、踏み込んでパンチをしてくれないか? 全身を使うイメージだな、力は腕じゃなくて手足からも発生するんだ」
手を離すと、猫耳族は数歩下がって右手を引いた。
『にゃー!』
左足で大きく前に踏み込み、中指を尖らせたパンチが腹にぶち当たる。
「うぐっ……」
正しい攻撃手段を手に入れた猫耳族の一撃はとても重くなっていた。
「う、おおお……」
衝撃にフラフラと転がることしかできなかった。
「にゃにゃーん!」
当の本人は自信が付いたらしく、誇らしげに胸を張っていた。
「成長してくれて、嬉しいぞ」
なんとか息を吸いながら、猫耳族を褒め称える。
「にゃー」
気性が荒いと聞いていたが、思ったより優しかった。
それ以上追撃することはなく、草陰にひょっこり消えていった。
これ以上殴られたら死ぬ自信はある。
控えめに言って助かった。
『お、弱々しい人間をはっけーん』
助かってなかった。
少し先にハゲの男が現れ、背中の剣に手を添えて近づいてくる。
『安心しろ、埋めてやるから』
俺は急いで立ち上がり、腰の棒を抜く。
『そんなんで抵抗するつもりか』
まだお腹は痛いが、仕方ない!
『ならば、受けて立て』
走りながら縦に振られた剣を、横にステップを踏んで避ける。
横に流れた剣は木の棒で防ぐ!
『その木、砕いてやろう』
両手で振り下ろされた懇親の一撃を避け、横に振られた剣をカンッと防ぐ。
単調な流れ。
「掛かったな」
防いだ剣が勢い良く棒からすり抜け。
上半分の木が落ち、胸元が急に熱くなる。
「くっ……!」
しまった、趣味で選んだ粗悪な鎧では剣を抑えれるわけがない!
よろけながら、胸を抑えて仰け反る。
「死んでもらおう」
右手のモノを矢のように投げて顔を狙う。
「ハズレだ」
掲げられた剣がキラリと光り。
ブオンと振られ、目を閉じた。
パチッ!
乾いた音に目を開けると猫耳族が両手で剣を挟んで抑えていた。
「こ、こいつは!」
男が驚く間に剣が下に持っていかれ、脆くない剣を猫耳族は簡単に膝で砕く。
使えなくなった剣を男が手放した。
『にゃー!』
丁寧に、踏み込みながら放たれた右ストレート。
「ぐああ!」
お返しと言わんばかりに胸元に直撃し、男がゴロゴロと吹き飛んでいく。
あの威力を貰えば起き上がってくることはないだろう。
攻撃を繰り出した本人も拳を見つめている。
「助かった」
女の猫耳族に助けられるとは思わなかった。
不意に力が抜けて座り込む。
クラクラする、斬られたからだろうか。
使えなくなった胸の鎧が猫耳族に外される。
そもそもパンチすら防げない鎧だからか、簡単に外れていた。
「にゃ!?」
気づいた猫耳族が俺の胸に両手を添える。
「さ、触るな痛いだろ」
傷に触られて痛いのも悪くないか。
「にゃー、にゃー」
ダメだと言わんばかりに首を横に振った猫耳族は、ビリビリと俺の衣類を手で裂いた。
見たくはないが、赤く染っているのかもしれない。
押し倒された俺は胸に顔を近づける猫耳族に委ねた。
「……」
生暖かい何かが傷口に触れて痛みを起こす。
思った以上に痛かった。
「なにしてるんだ」
舌を出したまま顔を上げる猫耳族。
「そういうことか」
猫耳族の唾液には傷を治癒する効果があると聞いている。
本当かどうか分からないが、手の傷程度なら舐め終えた頃には塞がっているらしい。
傷は端まで舐められ続け、猫耳族が俺から降りると。
「にゃ」
俺の手を引っ張って、起こしてくれた。
「ありがとう、助かった」
裂けた胸の衣類を隠す為に胸の鎧を付け直す。
傷が治ってるかどうかは、確かめたくなかった。
ただ、ズキズキ痛まなくなっている。
「……」
猫耳族は何も言わずに手のひらを見せてきた。
「ああ、お金は確かに払うべきだな」
それなりの金額を袋から出してコインを置こうとすると。
手がコインを避け、草に落ちた。
「にゃ!」
違うらしい。
よく見ると剣を素手で押さえたからか、切り傷ができている。
「まさか、舐めろって言うのか?」
コクリと頷く猫耳族。
俺には治癒能力がないんだが、猫耳族にとっては等価交換らしい。
「分かった」
その手を受け取り、顔を近づけて傷を舐めた。
微かに残る鉄の味。
猫耳族はこれを長いことしてくれた、俺も応えないといけない。
舌を傷に這わせて、血を取り除く。
顔を離すと猫耳族が重ねるように濡れた手をペロりと舐めた。
「なんだそりゃ」
正座を作った猫耳族がにゃあにゃあと笑う。
俺は、猫耳族の風習を知らなかった。




