良い奴
腹に二発目のパンチがめり込み、息が止まる。
『ぐっ……』
三発目のパンチを直感で掴む。
パシッ。
「か、カゲの手が」
背後を素早く取って説得する。
「エム、離せ!」
肘で殴られないように密着して声を掛けた!
「カゲに仕返ししようとしても、カゲは」
「仕返しなんてしないぞ」
「騙されない、カゲは騙す側ゆえに騙すことを知っている」
気持ち良いパンチに感謝したいくらいなのに。
「女に手を出す男じゃない」
カゲを離すと透明だったカゲが姿を見せてくれた。
「何もしてないが、したと思うなら別行動でいい」
「……エム、悪かった」
「そうか」
宿屋を後にして朝日を浴びる。
「エムの荷物を持とう」
「ダメだ」
カゲが返事してくれない。
「手を繋ごう」
手のひらを見せるとカゲはその手を握った。
「透明になる必要がある」
「役に立てるなら」
見えなくなっていく俺達。
ホウセンカギルドに透明な状態で行き、手を離して元に戻る。
「エム、消えた意味を問いたい」
「なんとなく」
ギルドに入るとカゲは消えていた。
『あら、ちょうどいい所に』
シンスが俺に気づいて声を掛けてくる。
近づいている間に、透明なカゲが後ろから耳元に息を掛けてきた。
「クレアはどうなっていますか」
「まだ治ってないわ、それより」
パンッとシンスが手を叩く。
同時に熱っぽいイタズラが耳から消え。
「久々のギルドクエストはこれ」
シンスが右手を床に向けて払う。
そのまま指と指を合わせてパチンと鳴らす。
床が開き、大きな板が現れた。
沢山の紙が貼り付けられている。
「青いドラゴンは、男には倒せないみたい」
シンスは一枚の紙を取って眺め始め。
「コノハとディアとスレイで、ドラゴン程度行けるわ」
もう見ないのか、紙を横長に丸めて自身の手に当ててパンパンと鳴らす。
「青は格が違います」
凶暴さという点で、他のドラゴンと話に比べれない。
ドラゴンは知力があるはずなんだが、奴は感じれなかった。
「男にはできないことがホウセンカならできる、当たり前よ」
「そういうレベルでは」
「ギルドマスターに逆らうつもり?」
サクラ剣術が使えるコノハが居るなら、なんとかなるか。
「……いえ」
「じゃあ、この依頼をやってきて」
投げつけられた紙が逆らうようにシンスの足元に戻っていく。
「拾いなさい」
俺の方が遠いけどな。
「はい」
近づいてしゃがみ、手を伸ばす。
「あなた、こういうのお好きなんでしょう?」
シンスの靴が俺の手を避けて踏む。
ヒラリと舞い上がった薄い衣類が俺の頭を飲み込んだ。
丸見えになった純白の花柄模様の先で。
ちっと心の中で舌打ちする。
「何か言ったらどう? せっかくのご褒美なのだけど」
踏まれた方がご褒美だったのに。
「まあ、いいわ」
俺は依頼を確認しながら下がった。
洞窟に現れた魔物を倒して欲しいって書かれている。
魔物が居るほど広い洞窟は利用価値があったりするようで。
「ほら、行きなさい」
「剣が」
「つべこべ言わずに!」
「……はい」
仕方なくギルドを出た俺。
「エム、言っておきたいことがある」
「なんだ」
『クレアの怪我は完治している』
「良かったじゃないか」
カゲが俺を見ながら姿を見せる。
「嘘をつかれて、エムは良いのか」
「クレアが元気になったのは、紛れもなく良いことだ」
「……エムが良いなら、カゲは良い」
「隠れて見てた奴が心配してくるのは、理由があるのか?」
危ない時に出てきてから、色々教えてくれるなんて都合が良い。
「エムが良い奴だとカゲは理解している」
「それほどでもない」
「カゲも、良い奴になりたい」
「……依頼、手伝ってくれるか?」
「エムの為に手伝おう」
じゃあ、カゲは良い奴だな!
「準備したら行くか」
「御意」
「もっと柔らかく言えないのか」
「理解した」
「理解できてないぞ」
ブラブラ歩いて、ピッケルを買った店に寄った。
「この鉱石を買ってくれないか?」
コクリと頷くと指を二本立てる。
200ヘルで買ってやってもいいよってことか。
「分かった」
鉱石をじゃらじゃら出して買ってもらう。
クレアの時に比べたら少ない金額が集まった。
別に取っておいた鉱石達を差し出す。
「これは、お詫びだ」
俺はかっこよくその場を去った!
仲良く金の袋を分けることにする。
「カゲは頑張ったからな! 半分だ!」
「受け取れない、盗んでしまったことが響いている」
「それはそれ、今は今、受け取るんだ」
「エムは、後ろから見る通りの男だな……」
嫌そうにしていたが、カゲの胸元にずっと押し付けると受け取ってくれた。
「よし、行くぞ」
「カゲがエムの武器となろう」
「何言ってるんだ? 武器屋に行くから平気だぞ?」
ガシッと俺の手をカゲが掴んだ。
『この金、返そう』
「大丈夫だ、問題ない」
「エムは強き武器を手にすべき」
「サクラ剣術を受け止めた男だぞ」
「そうではない」
首を横に振るカゲ。
「カゲ! 後ろに!」
「む、なにが?」
カゲが他所を見た隙に、手を引いて離れる!
「待て!」
振り返ると手を伸ばしたカゲが消えていた。
タッタッタッ……という俺以外の足音を残して。
このまま武器屋に行かないといけないのか!
「み、見えないの怖すぎだろ! 反則だ!」
『エムが止まればいいこと、故にカゲは追う』




