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全てを受け止めていたら最強になっていた。  作者: 無双五割、最強にかわいい美少女五割の作品
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エムは元よりカゲのモノ

 





 何やら声が聞こえて目を覚ます。


 右を見てみるとシンスが何か話してる。


 俺も起きないと。


 起き上がれない。体が重い。


 リドルは周囲をウロウロしていて俺に気づかない。


 声を出す。


「誰か、居るか?」


 カチャンと金属音が鳴る。左を見てみると鎧を纏った男が!


「確かに、ミトラだけで二人を運ぶなんて不可能だな」


「……」


「名前は?」


 男は兜を取ると何もない空間を見せてくれた。


「なんだ、お前か」


 コクリと頷く鎧野郎。


 ウルフファングの皮で別人かと思ってしまった。


「前に比べると傷だらけだな」


 こいつもどこかで戦ってきたのか、擦り傷に溢れている。


 ダガーだった武器も腰に剣を持っている。


「そろそろ起きないとな……」


 グッと腹に力を込めて起き上がる。


「いてて」


 ちょっと痛いと思いつつガマンガマン。


「ふう……」


 起きると重みがなくなっていた。


「カゲか?」


 抱き枕感覚で抱いていたが、これはカゲだな。


「…………」


 このまま抱いておこう。暖かくてちょうどいい。


「まだ動けそうにないな」


 俺は横になって安静に過ごした。


 朝方になってきたのかギルドが騒がしくなる。


 一枚隔てた先がバタバタ音を立てる。


 ガチャリとドアが開く。やってきたのはミトラ。


「起きましたか?」


「ああ、なんとか」


「この鎧さんのお陰でここまで、来れたので」


「運が良かった……」


 椅子に座ると何もつけていない手を見せる。


「つけなくても握手できるようになったのか?」


「い、いえ、壊れちゃいました」


「大丈夫だ」


 ミトラの手を握って確認する。


「ほら」


「ほんとに……」


「慣れてきたんだよ」


 手を解くと静かな時間が流れた。


 そんな時間を流し切ったのはミスト。


「リュウキくーん……」


「どうしたんだ?」


 答えると一目散にやってきた。


「まだ寝てたら心配で何も手につかなくなるところだったよー」


 隠すように何かを持っているミストが手を開く。


「まだ忙しいから、ずっと居れないけど、その……」


「なんだ、これは」


 受け取ってよく見てみると片手に収まる小瓶で。


 前に飲んだ飲み薬の色をしている。


「お薬造れるところも見せたいなって……」


 話を聞いているとミストと目が合わない。



『薬剤と料理は似てるって聞きます』


 ミトラの助言。



『いつでもお嫁に行けるとか、そんな感じ!!』



 言うだけ言ってミストは部屋を出ていった。


 とりあえずコルクを抜いて小瓶の中身を頂く。


「効きそうだな」


 小瓶を近くの棚に置いて暖かくなる予感を受け入れる。


 ふうっと転がってダラダラな時間を過ごす。


 シンスはまだ隣の誰かに話してる。


「隣は誰なんだ?」


「コノハ」


「なるほど」


 特にシンスから指示が来るわけでもなく数日はそのままだった。


 ちょこちょこルビーがお菓子を分けに来てくれたり、クレアが無言で居てくれたり。


「みんな優しいな」


『見守る名目でサボってるだけ!!』


 クレアはすぐ出ていってしまった。



「サボるほどの仕事もないので安心を……」


 聞いてもないのにミトラは事実を明かしてくれる。


「それはそれで……」


『喋った!?』


 シンスが不意に大きな声を出す。


 俺達は何事だとシンス側を見る。


「シンス、静かにして欲しい」


「黙ってて!」


 なにやらコノハの方に耳を向けて固まっている。


「ナンドモ、キイタ、キキアキタ……」


 掠れた声が聞こえてくる。


「ふんふん、この調子で元に戻りましょ! それでね」


 また話を始めるシンス。やめてやれよって思う。


 そこからコノハの回復は早くなった。


 まず変に暴れなくなった。たまに喋るようになった。


 ホウセンカが元に戻る頃、俺が元に戻った頃。


『リュウキじゃないか』


 一人でコノハを尋ねるといつもの声が。


「おお、元通りだな」


「ようやく自分を思い出したよ」


「どうしてこうなったのかも覚えてるのか?」


「飲み込まれた後、出ようと試行錯誤していた」


 もっと近づけと言われてコノハに近づく。


「でも、気がついたらドラゴンになっていた!」


 近づいた俺にがおーっと手を広げて襲いかかる素振り。


「何言ってるんだ、コノハは」


「それは気のせいだったことに、今気づいた」


「バカだな。シンスが聞いたら喜ぶ」


 離れようとするとコノハの手に引き止められる。


「やめてくれ」


「どうして?」


「あの昔話をまた聞かされるのは……ごめんこうむる」


「それもそうだな」


 せっかくだから、ベッドの端っこを借りて座る。


「腹捌いて出てきても良かったのにな」


「私とお前を一緒にするんじゃない」


「ああそうだ、カゲから言われてるんだが」


 コノハが目覚めた時用にカゲから必殺技を頼まれている。


「目覚めてすぐに?」


「シンスはコノハを見てめちゃくちゃ機嫌が良くなるはずだ」


 コノハは確かにと頷く。


「その時に、言わなくちゃいけないことがある」


「ほう」


「いい感じのパスをしてくれ」


「言葉を譲ればいいのか、わかった」


 俺はシンスを呼んでコノハの前まで連れてきた。


「本当に、コノハが元に? 嘘だったらあなた八つ裂きね」


 怖いことを言われながらコノハに全てを委ねる。


 戻ってないフリされたら最悪だ。


『シンスには苦労を掛けた、いや、こう言った方がいいかな? シンス殿』


「本当に……」


「代わりに昔話は」


「コノハ! 話せて嬉しい!」


 コノハに抱きついたシンスはスリスリと頬を寄せる。


「あまりそういうことは好きじゃない……」


「う。嬉しくて。二人っきりの時に、ね?」


「それもあまり」


 やめて欲しそうに左手を伸ばす。


「その手ってどうなの?」


「いつの間にかあった、前より動く感覚はしてる」


「全てが元に戻った感じ……」


「その立役者さんはシンス殿にお願いとやらがあるらしい」


「リュウキが?」


 シンスがクルリと振り返る。


「今言うのもアレなんだが、ギルドで結婚式ってできないか?」


「誰がを結婚を?」


「俺が……」


「誰と?」


「それは……」


 いざ言う時になってくると、恥ずかしくて出てこない言葉。



『カゲだぞっ! 忘れるなっ』


 透明なカゲが飛び出るように姿を見せる。



「なにもしてないとおもえば色目使って結婚? 随分な日々なこと、影さん」


「むむ……」


 カゲは部が悪そうに俺の後ろに逃げ込む。


 消えてるのと何も変わらないじゃないか!


「まあ、リュウキのお陰で色々良くなって、悪くなったことも元に戻って。感謝はしてる、しっかりとした式をあげましょう」


「助かる」


 俺達は一旦、この場から逃げよう。


『結婚、するのか……』


「そんなことより! コノハ、せっかく戻ったんだから歓迎会を〜」


 部屋を後にしてカゲと目を合わせる。



「カゲの名前を忘れるとはっ」


 俺の腕に巻き付いて終わったことを掘り返す。


 ぷくーって膨らむ頬。



「忘れてなんかない、言葉が出なかったんだ」


「どうだか! すぐに言葉が出るようにカゲと言え!」


「カゲ」


 顔を合わせて声を掛ける。


「な、なんだ……えむ……」


「よし、今日は猫探しでもしよう、平和ボケも大事だ」


「まて、まてまて」


「カゲと言えってだけだしな」


 俺が早歩きするとカゲも釣られて早く歩いてしまう。


『キスして三回好きって言え!』


「考えておこう」


「むうっ」


 特に猫が見つかるわけでもなく、カゲと散歩しただけだった。


「おかしいな、猫が見つかる予定だったんだが」


「依頼だったのか?」


「いや、猫触りたいなって思ったから動いたに過ぎない」


「カゲを触れ」


 触らないでギルドに戻ってきた。


「リュウキ、ちょっと来て」


 シンスに呼ばれて話を聞きに行く。


「明日には結婚式してあげるから、お願い聞いてくれない?」


「話が早いな」


「コノハの歓迎会を開いて、そのまま数時間後には結婚式にしようと思うんだけど、コノハがダメって言うの」


「確かに、踏み台にされてる感じはあるからな……」


 自分でも嫌ではある。


「結婚式と同じタイミングじゃないとダメって言って聞いてくれないの」


「えっ?」


「だから、コノハの歓迎会であり、結婚式でもある。それじゃないと嫌みたい」


「俺は別に良いが……」


「それで良い!?」


 俺の手を取って祈るように確認してくる。


「俺は文句ないが」


「主役三人で誰が誰の結婚か分からなくなるけど……」


「別にいい」


「助かるわっ!」


 カゲが俺の耳元でむうっと唸る。


「嫌な予感がするぞ、えむ……」


 気のせいだろってカゲに触れ返す。


 部屋に戻る途中で出てきたコノハが美女に囲まれているのを見た。


 その中にはミストやクレア、ミトラも居る。


 人気者は一味違うようだ。


「気のせいだといいな」


 夜はもちろん、カゲと過ごした。カゲは眠れないって俺の隣で囁いた。


「寝るまでもない」


「カゲは最高の状態で挑むと決めているっ」


 ゴロンとカゲが背中を見せる。


「緊張しているのか、不安なのか」


「どっちも……」


「あ、虫が」


 居るわけがない虫が居ると仮定してカゲの首元の触れる。


『は、はやくとれっ』


 背中を背骨に沿って人差し指で撫で下ろす。


「ひゃあ」


「冗談だ」


「お、怒るぞ!」


 振り返ったカゲが不満げに見てくる。もう二度と背中は見せてくれなさそうだ。


「明日のことより、今のことで不安になっただろ」


「変わらぬ!」


 ジーッと睨んだままのカゲ。



「もう寝るか」


「ね、寝るな、責任取れ」


 目を閉じるとカゲがピッタリ引っ付いてくる。


「本当に、寝たのか、カゲを置いて……」


 残念そうな声。


「寝るのはやめておこう」


 カゲの背中に手を回して逃げれないように捕まえる。


「よかった」


 ポツリとこぼれた声。


「安心したまま、寝た方がいい」


 カゲは静かに唸って何も言わなくなった。




 当たりが明るくなる頃、カゲがようやく目を覚ます。


「起きたか」


 見上げてコクリと頷いて体を起こす。


「エムと色んなことをする夢を見た」


 目尻を擦りながらカゲは教えてくれる。


「例えば?」


「例えば……い、言えぬ」 


 そっぽを向いた頬の赤さだけが見えてくる。


「正夢になるといいな」


「なるわけがないっ!」


 急に身を乗り出してカゲは否定してきた。


「……な、なるかもしれぬ」


 かと思えば、身を引いて肯定的に上目でちらちら見てくる。


『式が終わったら、エムは暇か……?』


 静かな空間で囁くような声色。


「することはないはずだ」


「二人だけで、どこかの廃屋に……」


「変わってるな」


「と、泊まるだけじゃないぞっ」


 カゲは胸元に握った手を寄せて膝で歩き進む。


「わかったわかった」


「わかっておらぬ」


 肩にパチンと手が乗る。


『二人共! そろそろ準備して!』


 シンスが部屋に入ってきた。白色の服を両手に持って。


「……」


 カゲの動きが止まっている。


「流れとか聞いてもいいか?」


「コノハが司会するから、それに合わせて」


「なるほど」


「服着て出てきたらもう始まってると思って」


 シンスはササッと出ていった。


「聞いてたか?」


「……着るか、仕方ない」


 そう言ってモゾモゾ服を脱ぎ始めるカゲ。


「せめて消えながら脱ぐとかしてくれ」


「ここにはエムしか居ないぞ?」


 俺はあまり見ないようにしつつ着替えた。俺達の服は白を基調としたスーツとドレス。


 見栄えは良い。


「えむ、これを……」


 カゲから渡された白花の髪留め。どこに付けるか聞くと好きな場所にって言われる。


「ここだな」


 パチンと止めてカゲに一声。差し伸べる一手。


「行こうか?」


『……はいっ』


 手を取って部屋を出る。ギルドは今日の為だけにテーブルなどを配置し直してくれていた。


「噂をしていたら、二人のお出ましのようだ」


 コノハが手を広げて俺達に注目させる。少しだけ恥ずかしく感じる。


「どんな話を?」


「言うまでもない、特等席に座って頂けるかな?」


 一段高い場所の煌びやかな椅子とテーブル。


 向かいながらさっきまで見当たらなかったリドルにどんな話をしていたのか伺う。


『教えてあげなーい』


 カゲは椅子に腰を下ろして俺を見る。


「早く、座れっ」


 急かされて早めに席につく。


「聞いて欲しい! 二人は本日、ご結婚なされる!」


 コノハの演説は聞いてて心地よく進む。



『心の底から祝ってやろう、それが底を突いたら物で、物が尽いたら言葉で!』


 そう言ってコノハは俺達の横にやってきた。



「結婚の意味について、考えたことは?」


 スッと向けられた人差し指が俺を狙う。


「証明だ、いくら紙に記しても本当にはならない。人に記せばずっと消えずに済む、こんな日々もあったんだって証明になる」


「へえ……よく言うじゃないか、ではそこのカゲ殿、彼の好きなところを十五個上げなさい」


「十五!?」


「うるさい」


 カゲの代わりに驚いているとコノハに口を塞がれてしまった。


 そんなにあるわけ、ないだろ!


「えっと……」


 カゲは両手を顔まで上げると呟きながら指を折り始めた。


「……とか、こういうところとか……」


「ほう」


「コノハに勝ったところも」


 他にも好きと含んでいいか怪しい要素も含めて十四。


「……」


「もうないということか? ええ? そうだろう?」


 カゲはコノハの問いに首を横に振って俺を見つめる。



『エムは物を盗むなと、代わりに生きる術を盗ませてくれる。今日は生きる意味を盗ませてくれた』



 むふふと含み笑って唇をニンマリさせるカゲ。


 ほんのり頬が赤く染まっていた。



「くっ、そうか、まあ、祝っていこう」

 

 コノハは手を振って合図するとボトルの酒を周りの美女に置かせた。


 俺達に何本か置くと見てくれている顔なじみの所へ置いていく。


 それぞれが思い思いに酒を堪能する。


「この酒はブランドから取り寄せた」


 コノハが栓を抜いて俺達の間に置かれた一つの小さなグラスに注いでくれた。



 俺の代わりにカゲがごくごく飲み干してふうっと果実の香りを吐く。


「おいしい」


 良かったなって答える。


「……分け合うという発想はないのか、お前達には」


「好きというわけじゃない」


 それから半透明なタワーがやってくる。


「な、なんだこれは」


「立て、そしてこれを使え」


 コノハに立たされ渡される刃物。


「はっ?」


 冷気を放つアレはナイフ一本でなんとかなる物じゃない。


 氷柱。


「ソランのお祝い試供品、氷のケーキ」


 それを聞いてもカゲはよく分からないと首をかしげる。


 俺は新しいビジネスこそ聞いていたが、謎めいた代物の為に命をかけていたのか。


「とにかく切ってみろ」


 コノハに推される。


「えむ、カゲにくれ」


「ああ」


 ナイフを渡すとカゲはぎゅっと握る。



『……ん、手を。カゲはエムと共に切りたい』



 手を重ねて刃を氷に立てる。


 サクッと入っていく氷はバターに刺さるホットナイフのよう。


 三角に切った氷を皿へ。座ってさらに細かく切って口へ。



「甘いだけだな」


「カゲにも!」


 氷を摘もうとしてカゲに止められる。


「……」


 カゲが物欲しそうに見てくる。これでは氷を手渡せない。


 顔を近づけるとうっすら唇が浮く。口渡しで氷を舌で流す。


 さっきの酒の風味が舌に貼りつく。



「ん」


 受け取ったカゲが唇を尖らせて氷を鳴らしている。


『おいひい』



「そうか?」


「うむ」


 カゲはご機嫌な様子で俺の膝に手を置いてじっとみてくる。


「くっ……イチャイチャしおって、我慢ならん!」


 コノハが大きな声を出して水を差す。


「なんだよ、開く日をずらせば良かったじゃないか」


「うるさい!」



 そう言って誰よりもうるさくパチンと大きく手を鳴らす。


『こちらとしては、元々反対だった! これはお前との相違』



 コノハは胸に手を当てて感嘆を吐く。


『めちゃくちゃにしてやりたい、これはみなの総意』



 ゾロゾロと顔馴染みが俺達を囲む。違和感に席を立って身構える。


「ど、どういうことだ!?」


 カゲがブンブン首を振って不安そうに呟く。



 よくよく考えたら、ミストが今まで出てこない時点で怪しかった。



「分からないか? では彼女らの声を聞こう」



 クレアが睨む。


『結婚、はんたーい』



 そんなクレアを押し退けて胸元を揺らすミスト。


『リュウキくんが結婚したら……ううん、結婚なんてどうでもいいよ、週一で抱いてください、お願いします』



 その次はミトラ。


『ないものねだりですが、ふつつかですが、私も反対してます……っ!』



 ルビーが『反対にゃ!』と覚えたての言葉でテーブルに爪を立てる。



『……えっと、とりあえず反対してくれと言われたので反対してます』


 タンザは申し訳なさそうに片手を上げてぎこちなく、はにかむ。



「わ、わ、わわわ……」


 カゲが今にも泣きそうな顔で俺を見る。


「この人数では押し負けるしかあるまい」


 リドルに助けを求めた!


『残念、リドル様もあっち側だからー』


 裏切られてしまった。誰か助けを!


「あんたのこと好きなわけじゃないけど、先に結婚されるのは癪に障るし」


「あら、追放に誰よりも反対してたのはクレアじゃなかった?」


 クレアの言葉を否定するのはコツコツと歩いてくるシンス。


「そ、それは前の話!」


「そう?」


「そう!!」


 見物とでも言わんばかりにシンスはコップを揺らす。


「待て、ソランはどこにいった?」


 コノハが周りを見る。しばらくしてギルドのドアが開く。



 そこのはゼエゼエと息を切らすソランと。


『結婚おめでとう、リュウキ』


 斧を担いだアデルだった。



「また、また変なやつが!」


 カゲは俺の腕に巻きついて所有権を主張し始める。


「ほら、アデル、代わりに言ってやって!」


『決闘しろ、お前が負けたらソランと結婚してやってくれ……これでいい?』


「うん!」


 ジッとカゲが俺を見る。


『負けたら、おこだぞ……?』


 まさかの売名に俺も声を荒らげる。


「こ、この流れで戦うのか!?」


「ライバルは、少ない方がいいっ!」


 正直諦めているのか、よく見つめてみるとカゲの目尻にはツーッと涙が。


「武器は……」


 コノハが首を横に振る。


「物事には、優先順位があるんだ。助けてくれ」


 俺は飾りのように佇む鎧に声をかけた。


 カチャンと動き出した鎧は俺の前で足を止めて膝を着く。


 鉄のヘルムを外して中からゴソゴソ取り出す。



 その手に握られていたのはあの日と何も変わらない、肩に纏われているもの変わりない、ウルフファングの毛皮。



『お前もそっち側か!』



 カチャカチャと丁寧に頷く鉄の塊。



「や、やらぬっ」


 カゲが俺の前に立って両手を広げて最終防衛線を張る。


 多数に無勢。ジワジワと追い詰められる。



『にゃっにゃっにゃ!』


『傷舐めの風習を忘れてしまったのかにゃって言ってますね』



 女というのは怖い生き物で。


「また、カゲは奪われるのか……!」


 カゲは凄みに押されて俺の腕に巻き付いて引き下がる。


「そうよ、あんたはリュウキの影で終われば良かった。贅沢に腕を抱いていいわけじゃない」


 クレアの言葉を言い返せないカゲの代わりに反論する。


「言い過ぎだ、俺はカゲが居なかったらドラゴンに食われていたんだ」


 その通りだとカゲが俺の肌で涙を拭く。


「そ、それがなに? なんなの?」


「カゲ次第で死んでいたということは、実質的に俺はカゲの物として生きてもおかしくない」


「だ、だったら私も! 助けられたからあんたの物になれる! 逆行の刃に!」


『俺はカゲの物として()たい』



 カゲは背を伸ばして俺を撫でてくれる。


「よしよし、ではカゲをお姫様抱っこして三回キスを」



 言われた通りにカゲを両手に抱いて唇を何度か鳴らし合う。



 三回だけ好きって言い合う。



「半殺し! 半殺しにしてモノにしてあげる!」



 クレアの魔法道具が強く輝き始める。



 それを合図に空間が揺れ、足音の合唱で振動する。





『エムは元よりカゲのモノ』





 カゲの瞳がギラつく。瞬いた刹那に俺達の体が溶けて消えゆいた。





『エム、走れ』





完。これで終わりです。

よかったら、評価してくれると嬉しく思います。


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