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全てを受け止めていたら最強になっていた。  作者: 無双五割、最強にかわいい美少女五割の作品
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本気で言ってんのか




 ……。


 気がつくと俺は寝ていた。


 起きると落ちた前ってことに気づく。


『言うこと、ない?』


 ミトラは俺の手を握ってくれる。


 違う、落ちかけた後だった。


「手放さなくてよかった、ありがとう」


 意識を奪われて感謝することになるとは。


 ミトラには感謝しかない。


「えっ! 手を離して死のうとしてた!?」


 ソランが肩を掴んで揺さぶってくる。


「ミトラも道連れにしそうだったんだ」


「三個目諦めてなかったら共々落ちてたでしょうね……!」


 それまでミトラは耐えてくれてたようだ。


「三個目か、取りに行った方がいいか」


「二個あるし、もういいよ!」


「そうか?」


「そう!」


 帰ろうとソランが提案してくれる。俺は何もできなかった、反論するつもりもない。


「あの、助けて、あげたので」


 帰り道を辿るソランを追っているとミトラが並んできた。


「なんだ?」


「手を握っても……」


「いいぞ」


 ミトラの右側に回って左手を差し出した。


「………」


 途中でソランがビジネスを話してくれた。


 今回で手に入れたアイテムを加工して使えるものにしたら実験的に店を開くそうだ。


 その時は来て欲しいと。


「だから今日は、これで終わり!」


「そうか」


 街に戻ると小さな店で奢ってくれた。


 こじんまりとした店だが、良い雰囲気が出ていた。


 ソランの変化に感動しつつ景気づけに食べる。


「美味しいです」


 ミトラはガッツリと黒く染まった肉の切り身を口元に運んでいる。


「もっと食べていいって! 命の恩人なんだから!」


 命の恩人には優しくしないとな!


「ミトラ様、飲み物を口元にお運びしましょうか」


「……お願い、します」


「えっ」


 冗談が通って驚く。しかし言ったことなので仕方ない。


 ミトラのグラスを口元に近づけて傾けた。


「……」


 コクコクと流れていく液体。頃合いを見て流れを切る。


「どう、なんだ?」


「良かった」


「そ、そうか……」


 ちょっと気まずい。ソランに話題を振る。


「そういえば! アデルは?」


「ずーーっと筋トレしてる、だから居ない」


「強くなるのはいいことだ」


 ソランはあまりよく思ってないみたいだが、強くなるには理由が要る。その理由を見つけたことは良いこと。


「そう……かな……?」


「そうだぞ」


 ミトラが食べ終えるまで俺は赤い飲み物を楽しんだ。


「ごちそうさまです」


 パチンと手を合わせる音。俺も合わせてみる。ソランも合わせていた。


「……帰るか」


「はい」


 席を立って椅子を押す。ギリギリ(おと)が立つ。


「ソラン」


「な、なに?」


「いつでも頼っていいからな」


 ギルドに戻ってミトラと別れる。


 カゲの様子を見に部屋へ。


 見事に寝ていた。俺はベッドに座って夜まで見守ることにした。


『えむ……』


 ずりずりベッドが擦れる。振り返らなくても寝言だと分かる。


 まだ夜じゃない。寝言に答えるのは本人に悪い。


『えむっ』


 両肩に手がポンッて乗る。右耳から、左耳から声が聞こえる。


『えーむー』


 視界の上からひょっこりカゲが顔を見せる。


「本当に起きてたのか」


「うむ……」


 俺の首にカゲがベッタリ巻き付く。少しだけ背中が暑苦しい。


「眠そうだな」


「このまま寝るつもりだ……」


「ダメとは言わないが」


「では寝る」


 寝てしまったのか、やたらと息が耳に届く。


 夜になるとカゲは目を覚ます。頬が暖かく濡れる。


「なんだ」


「おはようと言いたい」


「おはようだな、それは」


 背中から離れて俺の視界を陣取るカゲ。


「今日はエムに甘える所存」


 俺の足に腰を落として見下ろす。


「なでなでを……」


 頭を撫でると目を閉じて何も言わなくなる。


 ただただ俺の手に合わせて揺れている。それを愛らしく思う。


「次は……」


 撫でられながら次を考えているのか、そのまま口を開けたまま。 

『今日もお仕事しましょう!!』


 声に押されるようにはドアが吹き飛びそうな勢いで開く。


「た、タンザか」


「にゃー」


「ルビーもか」


 カゲはパチパチ瞬きして驚いた様子。直後に残念そうに唇を丸める。


『悪いが……』


「寂しいです」


 少し前の似たような表情がフラッシュバックする。


「分かった、行こう」


「そうですか!」


 カゲに降りてもらって謝る。


「悪いな、ついてくるか?」


「……二度あることは三度ある、次もまた」


「かもしれないな」


「行かぬ……」


 クルリと背中を向けたカゲの肩身が荒ぶる。


「行ってくる」


 カゲが作ってくれた剣を拾ってタンザについていった。


「今日はどうするつもりだ」


 早めに切り上げることも考える。


「隣町に行きます」


「どうして?」


「馬車が来ないなら行けばいいって言われたんです」


 タンザは片手に大きな金袋を持っている。


「なのでこれから隣町に向かいます」


「夜までに切り上げたいんだが」


「それは無理ですね」


 何故と聞き返す。


「だって、馬車じゃなくて徒歩ですから」


「……そうか」


「もちろん、帰りは馬車ですが!」


「元気だな」


「あなたと長く歩くのは初めてですから! 楽しみです」


 ルビーがにゃっにゃって割り込んでくる。


「酷いよな、ルビーが忘れられてて」


 うにゃうにゃ頷いて長い目で呆れている。


「ち、違いますよっ!」


「どうだかな」


 街を出て夜の草原を超える。歩きというのは簡単じゃなく、小さな木の実で道草をしつつ隣町を目指す。


「どんな所なんだ?」


「肉が美味しいらしいです、買う物もそれに沿ってるみたいで」


「そうか」


 隣町に着いた頃にはもう朝。


 ホウセンカとは一味違って赤い外見に染まっている。


 レンガ造りと言えば聞こえはいいが、頭が痛くなりそうだ。


「……疲れましたね」


 途中でトカゲの大群に追いかけられたので俺も心が疲れている。


「休んだ方がいい」


 ルビーは元気で羨ましい。


「馬車の予約と交易をしなければ行けませんので、ルビー!」


「にゃー」


 タンザの前でしゃがんだルビー。


 遠慮なくのしかかるタンザを背負うと指示通りに立ち上がる。


「完璧です」


「ルビーも苦労してるんだな」


 馬車を用意してもらい、精一杯のアイテムを揃える。


 金袋と思っていたタンザの持ち物は鉱石。俺が取ったモノ。


 通貨は違うようで、鉱石は都合がいいみたいだった。


「これと、あれと……」


 タンザが紙と相手を交互に見て指を向ける。


「それです!」


 ありがとうございますと言って荷物を俺に回すタンザ。


「一旦、馬車に置いてくるか」


「そうしましょう、まだありますからね」


 店と馬車を往復して荷物を詰め込む。


 ようやく買うものがなくなり。俺達は馬車に身を置いた。


「帰りましょう、やばいです、疲れました」


 そう言って干し肉をかじるタンザ。


「にゃにゃあ」


 ルビーは甘そうなお菓子をパクパク。


「まあ、そうだな」


「あなたもやばいんですか?」


「やばいぞ」


 主にカゲが。


「そうですか……」


 馬車に揺られて戻ってきた頃には昼。まさかの昼間。


「あとはギルドに報告すればいいです」


 ホウセンカギルドに戻ってシンスが話を受ける。


「お疲れ様、休んで」


 タンザ達は大きく伸びをしてから部屋に戻っていく。


「俺は?」


「まあ、休んで」


 シッシッとあしらわれた。部屋に戻ってカゲの様子を。


 いなかった。透明になっているんじゃないかと周りをぺたぺた触ってみたが居ないようだ。


 ついてきたというのはさすがに有り得ない。


 少し休んでいるとクレアがやってきた。


「……おかえり?」


「どうしたんだ」


 静かな様子でベッドの端に座ると(おもむろ)に口を開く。


「……ごめん」


 静かな声は部屋に響き渡る。深刻そうな顔に終わったことだと返してクレアを見る。


「ねえ、好き?」


「なにが?」


「あんたは好きかってきいてるの!」


 身を乗り出して俺に問うクレア。


 何を言っているか分からないが、答えてくれるまでこのままに違いない。


 答えに悩んでいるとリドルが助言してくれた。


『好きっていっとけー』


 リドルはたまに嘘ついたりする。爆弾かもしれない。


「嫌いだな」


「っ……」


 クレアの表情が引きつる。身を引いて脇を締める。


「そっか」


 ギシ。ベッドが音を立ててクレアを立ち上がらせる。


「お邪魔、した」


 靴が歩く音だけが響いた。最後にドアがガチャンと閉まる。


「確かに変なやつだな」


「でしょでしょ……っていうか! なにやってんの!!」


 半透明な手がヒュッと俺を凪ぐ。


「指示通りにしなかったからって怒るなよ」


「いやいや! 本当に何言ってるかわかんなかった!?」


 わからんと頷く。


「かーー、やっば」


「リドルは分かるのか」


「分かるよ、リュウキから見て、クレアのことが好きかどうかってこと、好きなら追いなよ、早く」


 急かすリドルにちょっと待てと手のひらを見せる。


「正直、好きじゃないぞ」


「はあっ!? なんで!? 可愛いじゃん! 美人じゃん! ホウセンカじゃん!」


「いや、それが……」


 クレアと行動を共にした時のことを少し語った。


 初めて行動した時から久々の洞窟、酒のこと。


「空回りって本当にあるんだね……」


「俺はちゃんと踏み込んで回ってるぞ」


「違う、相手の方。好きが散らばってるのに嫌いの方が目立ってる」


「そうか? クレアが好きとは思えないな」


「そういうところ」


 リドルは残念そうにため息をつく。


「ダイレクトの方がいいって気づいたやつの勝ちかな」


「そうだぞ、攻撃は当てるなら直撃がいい」


「黙れ鈍感」


 悪気はないんだが、リドルに怒られたので静かにする。


「好きじゃないのに追うのも変だし、そっとしとこ」


 リドルに従ってベッドでゴロゴロしておく。


 不意にドアがギイッと開いてカチャンと閉まる。


 見てみると誰か居るわけでもない。


 何事だと体を起こして身構える。ゾワゾワ身の毛がよだつ。


 まさか、幽霊? リドルを見てみるが違うと手を振ってきた。


 一歩一歩足音が鳴る、ベッドの一部が凹む、何かが近づく。


「…………」


 少しして熱を持った質量が胸に倒れ込む。


 柔らかくて少し硬い針髪。


「すー、すー」


 正体が分かって俺も後ろに倒れ込む。


 ちゃんと寝れるように撫でた。


 撫でて撫でて。いつの間にか、夜になる。


 カゲもスッと目を覚ます。


「幸せ」


 唇がニッと広がる。本人が嬉しいなら何より。


「だが、そろそろ」


「それまで、カゲを見ろ」


 俺の上に乗って見下ろすカゲの顎に触れる。


「なにを」


 人差し指で引くように撫でる。顔が上がって、んっと声が出る。


「にゃーって言ってみたらどうだ」


「にゃーー」


「猫みたいだな」


「猫ではないっ」


 カゲは顎を隠すように姿勢を下げてしまった。残念。


 頬に触れてみたり、カゲの新しい表情を探してみたが見つからなかった。


「そろそろ来るはずなんだが」


 そんなことをしている場合ではない。体を起こしてドアからの足音に気をつける。


「休んでいるのではないか」


 カゲが俺の視界を邪魔しながらもしもを提案する。


「かもしれないな」


「それまでカゲと居るのも……」


「そうするか」


 カゲと朝まで過ごしてもタンザ達は来なかった。


「おかしい」


「おかしくないっ」


「どいてくれ」


 カゲを下ろして部屋を出る。シンスを探して声をかける。


「聞いてもいいか?」


「なに? 忙しいの」


 鋭い剣幕。


「タンザ達は?」


「お金はもうあるから、大丈夫」


「俺は?」


「大丈夫」


「どうして?」


 シンスが邪魔そうな顔をする。


 もう既にパシられてもおかしくないのに。


「自分がしたこと忘れた?」


「したこと? なんだそれは」


「宝石が沢山入った袋を取ってきて、充分頑張ったじゃない」


「してないぞ」


「嘘つかないで、袋の中にリュウキって名前が書かれた紙がしっかり入ってた」


 そんな善意を主張するようなこと、俺がするわけ!


 というかしたことない!


「俺は嵌められたんだ!」


「いいことして何言ってるの」


「俺じゃないぞ!」


「はいはい、みんなそう言う、恥ずかしいから」


「ち、違うからな!」


 人差し指を突きつけながら後ずさる。


「本当に、本当、信じてくれ」


 踵を返して部屋に逃げ帰る。


「カゲ! どういうことだ!」


「むっ?」


 俺の代わりにゴロゴロしているカゲを問いただす。


「座るんだ」


「分かった」


 ちょこんと座ったカゲに宝石を聞く。


「し、知らぬ」


「本当か? 盗んできたんじゃないか? ええ?」


「違う、薔薇とアサガオくらい違うぞ、ひゅーひゅー」


 そっぽを向いたカゲが鳴りもしない口笛を吹く。


 わかりやすっ。


「カゲだな、透明な時になんでもできる、前科もある、そしてシンスは誰が持ってきたのかも知らない、中の紙で判断していた」


 そんなことできるのは本当にカゲしかいない。


「……むう」


 認めたのか、静かに俯いた。


「カゲはエムと一緒に過ごしたかったんだぞ……なのに、お仕事に追われていて」


 グスンと鼻をすするカゲ。


「一緒に過ごす時間が欲しくて、やった」


 ポロポロ水滴がカゲの頬を流れる。


「そうか」


 すまないと何度も謝るカゲを責めることはできない。


「カゲはもう、エムの前から……」


「そこまでする必要はないぞ」


「……本当か」


「一緒に過ごさなかった俺も悪いんだ」


 カゲが逃げないように抱きしめる。


「せっかくの休みだ、盗まなくていいくらい一緒に過ごそう」


「うむっ」


 カゲの涙を拭いてあげて。


 これからどう過ごそうか、プランを考える。


「えむ、えむ、えむ」


「元気だな……」


 羨ましく思っているとドアが勢い良く吹き飛ぶ。


「えっ?」


 白いモヤが晴れるとそこにはシンスが。


『ちょっと聞いて! コノハが森に居るみたい! 今から探しに行ってみてくれない!?』


 カゲがせっかく涙を拭いたのに、うるうる瞳を光らせる。


「えむ……えむ……」


「ははは、はは」


 気休めにカゲを撫でながらシンスを見た。


『本気で言ってんのか?』


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