備考
カゲの気持ちに応えた。
『もう一回』
催促に応えた。
『エム……聞いてもいいか』
「なんだ」
『カゲが居ることにいつ気づいて、くれた?』
その質問には堪えた。
「え、あ、まあ」
俺の手を真剣に握って重要な予感をヒシヒシと感じているカゲ。
「まあ、そんなことはカゲにも心当たりあるだろ?」
「あるぞ、でも、エムから聞きたいな……隠密の参考にする」
「まあ、まあ、近くで休憩しようか」
「休憩? エムも疲れるのか!」
カゲの背中に触れながらどうしようか考える。
本人は特に失態していないと思っているようだが、ルビーが威嚇してきた時点で全てを察しただけだった。
輝きの欠片もない、思いやりの欠片もない。
しょうもないミス。
「エム、どうして気づけた?」
思ったよりも早く着いてしまったベンチにカゲを座らせる。
「よっこいしょ……」
「遅いぞ!」
「そ、そうだな」
とりあえずカゲがしてきそうなことを考えて口に出す。
「ずっと俺の後ろに居ただろ」
「む、バレていた……」
「カゲの匂いがした」
してません。
「後は……キスしてきたとかか?」
適当な推論。
「むむ」
カゲはパッと顔を手で隠した。
「えっ?」
「バレバレだったとはっ!」
「そ、そうなのか」
本当にカゲはしてきたのか? という疑問。
「もうせぬ」
「どんな感じでやったのか教えてくれ」
カゲが俺の肩に唇を当てる。
「いつもはバレないように軽く……」
そう言ってフッと衣類の中に熱を送り込むカゲ。
「消えてしてみてくれ」
カゲが姿を消してしばらく。そして現れる。
「エム、したぞ?」
残念そうに唇を潤わせるカゲに気づけなかったとは言えない。
「少し悲しい」
「終わるのを待ってたんだ」
「ならいい」
居ないからと油断できないことがわかった。
「……」
ツンツン指先が話しかけてくる。
「どうした?」
「お返しは、ないのか」
指先を手に取ってカゲの期待に答えた。
白い肌を汚した気がして濡れた手の甲を拭う。
「ふ、拭くな……」
カゲは手を引っ込め、空いた手で甲を口元に寄せていく。
触れた唇がピッタリ張りついて離れた。
「カゲも、良い思いしたかったのに」
ポツリと手が落ちていく。
「良い思いしてると思うぞ」
「足りぬ、財宝のように愛でられながら輝きたい」
「欲張りだな」
「親に愛でられる子供が羨ましい」
ちょうど前を財宝と持ち主が横切っていく。
「じゃあちょっと行ってみるか」
「行く?」
「そんなに遠くないからな」
カゲに起立を誘って待つ。
「エムが行く場所、うーむ」
「迷わないように」
カゲの手を引いてしばらく歩いた。




