仮初
『ぬ、抜けがけられる方が悪い』
カゲは悪意を否定しながらも、無理矢理とびこんできた。
丸見えの悪意。
「する方が悪いぞ」
「そんなことはどうでもいい、終わったこと」
乱れた髪がフリフリ飛沫を散らす。
「整えろ、エム……」
カゲは顔を見て話をしてくれない。
「分かったわかった」
手ぐしで仕方なく整えてあげる。
途中でルビーが戻ってきた。
「にゃ!」
特に怒っているわけでもなさそうだ。
「あとは、自分でできる……」
カゲはあっさり俺から離れると髪に手を加える。
「さっきまでできなかったくせに、変なやつだな」
「う、うるさい! いまはできる!」
ルビーの方がしっかりしてそうに見えてくる。
背筋と猫耳がピンと伸びていて、たくましい。
「にゃーあ」
カゲにそれだけ言ってそっぽを向いた。
「皮肉でも言ったんだろうな」
「カゲになんと言った?」
「借りて来た猫みたいってな」
「ね、猫はお前だっ」
人差し指でルビーに怒るカゲを撫でてみる。
「……むう」
腕と文句が静かに下りていく。
「おお、借りて来た猫はこんな感じだったな」
猫ということが分かった。
「ね、猫ではない」
撫でている手と髪の間。カゲは両手を差し込んで身構える。
「まあ、そうだな」
二人を連れて歩いてみた。
よくよく考えると遊ぶ為に歩いたことはあまりない。
「何も思い浮かばないな」
「カゲは思っている!」
「なにを?」
「いろいろ……」
俺を見て色々あると言う。
「ほう」
「エムのことだけでは断じてない、例えば……」
「例えば?」
「……たとえば、たとえば」
その様子では何も考えてなさそうだった。
「ないならルビーと遊ぶが」
「あ、ある! 腕の代わりを務めたいとか」
「俺のことじゃないか」
「むむっ」
俺は指でルビーを釣ることにした!
「にゃっ」
手首を掴まれて引き寄せられる。
ルビーの力はやはり強く、引き返せれない。
「くっ」
手が震えるほど左手は寄せても帰ってこない。
「にゃー」
指を振る。瞳が近づきながら左右に揺れる。
「にゃあ」
ルビーは指をゆっくり咥えた。
「視線が気になるな」
指をあげているので周りの人に注目されながら歩いている。
本人は満足したのか指を抜いて返してきた。
「にゃあー」
濡れた指を最初みたいに咥える。
「にゃーん」
ちょっとだけルビーの唇が広がる。
「カゲの指も、食べるか……?」
「食べるわけない」
「では自分で食べる」
そう言ってパクリ。
「なんだそりゃ」
「……」
「なんだ、じっと見て」
「ふんっ」
カゲは拗ねてしまった。
「あれもこれも、ルビーのせいだ」
「にゃ?」
「なぜ何もしていないのに関心を引く」
心傷気味なカゲ。
「まあまあ、落ち着けよ」
「落ち着けるか! 落ち着いて欲しいなら、カゲしか見るな」
俺の視界占領を企むカゲは背を伸ばして肩を掴んできた。
「なにか言え……」
「あいうえお」
「なんだそれは!」
「冗談だ」
「カゲとの関係は冗談なのか! そうなのか!」
目尻の涙がブレる。カゲがグワングワン肩を揺すって怒ってる。
『おお、ここに居たか』
「だ、誰だ? またエムのお友達とやら……」
「共演をお忘れか?」
「きょ、共演?」
察した俺はカゲの両目を指の束で隠して振り返る。
「わ、み、みえぬ、カゲが話しているのに、わりこむな」
例の商人が背広な服を着込んで立っていた。
『猫耳騎士団と猫耳王女の物語を!』
「懐かしいな!」
商人が頷く。
「離せ、エム」
「ああ」
俺はカゲを離して商人に話を委ねた。




