もちつき
『か、カゲにも……』
「好きなようにしていいぞ」
「では好きなようにする」
手をすり抜けてカゲは胴体に巻きついてきた。
「歩きにくいな」
「カゲも歩きにくい」
適当な朝食。
外に出てカゲが指さしたのは屋台。
「あれが、いい」
ルビーは特に文句ないらしい。
「じゃあそうしよう」
その屋台からは甘い匂いがする。
「何を売ってるんだ?」
『え? あ、僕?』
頷くと少し中性的な少年は本を横に置いた。
「普通にパン焼いてるよ」
「パン? これが?」
円形で薄べったい生地が火の上の網で寝ている。
「うん、使ってるものは一緒だけど……この形の方が食べやすいかなって」
「そうかもしれないな」
「お兄さん、ちょっと近づいてみて」
近づこうと進むがカゲに通せんぼされた。
「君のモノか、なら仕方ない。お兄さんに免じて三枚あげる」
よく分からないが、ちょうど焼けた甘そうなパンが紙に包まれる。
それが俺にカゲにルビーに渡る。
「じゃあね、お兄さん」
「助かる」
歩き始めると同時にルビーはパンを美味しそうに頬張っていた。
「エムは狙われていたっ!」
そう言って紙の端っこをクシャクシャに潰す。
「思い込みが激しいな」
「むう……」
不満そうにパンは食べている。
「カゲ、これも食べていいぞ」
「そうする」
「食べるのか」
「結構美味しい」
感想は甘くてしっとり。そこが良いらしい。
「エム」
黒光りする生地の中は黄色く蜂蜜の匂いを思わせる。
「くれるのか?」
「うむ」
そのまま口で受け取った。
「悪くない」
「カゲとどっちが甘い?」
「え?」
「どっちが甘いのかと聞いている」
カゲの目が逸れない。
「……パンだな」
「そ、そう、か」
残念そうな声色。
「俺は甘い物が大好きなわけじゃない」
「そうか!」
カゲに右手を見せる。
「うむうむ、嬉しい」
ギュッと暖かくなったような。
「にゃー」
じーっとルビーの視線に気づく。
「どうした?」
「にゃあ」
カゲと俺の間にやってくると手刀をスッと振り下ろした!
「な、なにをっ!」
「しゃー!」
「しゃ、しゃあ!」
ルビーがカゲに威嚇している。カゲも負けじと手をいからせる。
「ルビーも手を繋ぎたいのか?」
「うにゃ」
左手を上げると両手で握りこんでくれた。
「なっ!」
「カゲも我慢くらい覚えないとな!」
「我慢などしたくないっ」
「どうせ昼にはギルドに戻るみたいだからな」
「むう……」
カゲは空っぽの紙を俺に渡すと両手を後ろに回す。
「エムはカゲに厳しい」
「俺は対等なつもりだぞ」
「そういうところが好かない」
かかとで地面をわざとらしく叩いてガツガツ歩く。
「い、いたた」
強く叩きすぎたのか、ピタリと足を止めてしゃがみこむ。
「大丈夫か?」
痛む所を両手で押えたカゲは右目を何度も瞬きさせる。
「る、ルビーのことが好きなんだろう、カゲのことなんて、捨ておけ」
痛そうにされては捨てていけない。
「にゃ」
ルビーは行きましょって優雅に手を引いてくる。意外に薄情。
「それは無理だな」
手を離してカゲの前にしゃがむ。
「ほら、前みたいにな」
何も言わずにのそのそ乗ると首元に手を巻き付かせる。
俺が立つ。カゲは呟く。
「……なさけない」
「ほんとだぞ」
カゲを右手で抑えて左手をルビーにあげた。
APEXの大会見ました?あんなに競技映えするゲームは他にないっすねえ




