異常
仕方なく空っぽコップの濡れた部分に口を付ける。
まだ甘い。俺には十分だ。
『……ドラゴンが増えてきているようだ』
「増えてきた?」
ブランドはキュッキュと棚下のコップを拭う。
「ここは異常だ、女の戦士がよく言う話で、他のことがおかしいと言う、それは己の異常を和ませる感覚」
「何を言ってる?」
「ドラゴンが二体も、周囲で身を潜めているって話だ」
「ものは言い様だろ、周囲と言っても距離次第じゃ……」
「お前もおかしい、存在していることを脅威と捉えれてない時点で」
口に手を当てる。
俺は会話する機会を探るが、普通の人間は知らない。
「――ひょっとして、死にたがりか?」
「そうかもしれない、日々こそが死に様に近い、死ぬならスッキリとやってくれそうな脅威が良いな」
カゲが『エムなんか死んでも知らない』と余計な一言。
「それは勝手にしろ、ただお前、仲間を巻き添えにはするな、クレアもな」
「カゲだけは巻き添えにして死ぬつもりだ」
無駄口を叩けるカゲだけは死んでも許さん!
「巻き添え? お前が?」
「そうだ」
ブランドはありえないと笑う。
「お前の場合は、巻き添えより先に辻斬りを知った方が早い」
「苦しそうに死なれるくらいなら、手を出すかもな」
カゲが適当な食べ物をチョイスする。
しばらくして現れた食べ物たち。
「エムにはやらぬ」
広げた腕の中に皿を収めるとぱくぱく食べ始めた。
「美味しいか?」
「うむ……うむ」
縦長のパンを頬張ってる。
「リスみたいだな」
カゲの頬が赤く染まる。
口の中の食べ物を飲み込むと小さな一口。
「うさぎみたいだな」
ついにカゲは俺から背を向けた。
「猫みたいだな」
丸まった背中がピンと伸びる。
「かわいいな」
振り向いたカゲがはむはむ何か言っている。
何も言うなってことらしい。
「……」
「またリスみたいになってる」
「はむはむ!」
「食いながら喋るな」
飲み込むとエムのせいだと言ってくる。
「カゲと喋ったらダメなのか……」
「うむ、しっしっ」
珍しくツンツン気味なカゲが食べ終えるのを待つ。
「カゲと喋れないのは寂しいなー」
ゴクリとカゲの喉が鳴る。
「……エムも食べていい、それなら寂しくない」
優しいカゲ。こんなに優しいなら許してくれるだろうとカゲの食べかけパンを盗む。
「あ、新しいのを取れっ」
「俺は別に食わなくても生きていける」
それでも食べる時は理由がある。
「もし食べるなら、理由を見出すことにしてるんだ」
「そのパンに理由?」
「カゲと同じ物を食べてみたかった」
美味しいそうに食べるこれはどんな味なのか。
カゲの真似をしてかじる。
「え、えむはへんだ」
「そうだぞ」
『でも、結婚相手にふさわしい……』
パンを盾にじーっと見てくる。
「そうか?」
「そうだ」
理屈はよくわからないが、そうらしい。




