仲良しサービス
仕方なく、本当に仕方なくこの場を後にする。
『えむっ』
カゲに帰りたいと言われたからだ。
「ゆっくり帰ろう?」
左手を自分のモノと信じて疑わないカゲ。
「それでもいいな」
コインを右手で回しながらゆっくり帰る。
「……離してくれたりしないのか」
「この手はやらぬ」
「だっこの次は巻き付きが流行りなんだな」
「それは違う」
頷いてくると思っていたら否定的に首を振る。
「これはただの愛情表現、他意はない」
「あったら困るんだが」
「エムの所有権を見せつけたい、それだけ」
「あるじゃないか」
淡々とした愛情表現。
「……」
俺の二の腕に隠れる姿は知らぬ存ぜぬと言った具合。
「邪念を持つカゲは離れないとな」
首で会話してくるわがままなカゲ。
「お、カゲ、くまさんだ」
パッと体が周りに溶け込む。
「冗談だ」
カゲはムッとした様子で元に戻す。
「キスしよう、許してくれ」
街のクエストワークで報酬を握り込む。
「半分こだ」
久々にブランドの酒場にやってきた。
空気感は前と変わらない。
『元気にやっていたか』
ブランドの問いに頷いて雰囲気通りにカウンターへ座る。
「実は仲良しサービスを初めてな、仲が良い奴を連れてたら割り引くってやつだ」
カゲを見て行けると判断する。
「仲良しだ」
「本当に、そうなのか?」
ブランドがカゲを見て問う。
「ち、違う! 仲良しなんかではない!」
「それにしては随分と距離が近いが」
「恋人で、婚約者だっ!」
カゲが俺の所有権を主張する。
「超仲良しサービスに改名しておかないとな」
「超仲良しでもない!」
「じゃあ極仲良しか、そうだろ、そうだな?」
『仲良しとかその程度の関係ではなくぅ……』
ブランドの言葉にタジタジにやられるカゲ。
「こういう関係なんだ、察してくれ」
俺はカゲを撫でて助け舟をだす。
「ちょっと聞いてみただけだ、気にするな」
ブランドがその場を去っていくと。
カゲはプルプル震えて今にも泣きそうにしていた。
「仲良しなんかでは」
「本当はブランドもわかってると思うぞ」
「キスなら、もっと分かってくれる……」
唇をすぼめて目を閉じるカゲ。
「これが、仲良しサービス元い、ラブラブサービスのおもてなしだ」
タイミング悪くブランドが持ってきたのは白いエスカレード。
「な、分かってくれてたんだ」
「それと今は別……」
カゲがこの場に乗じて邪なことを考えている。
「うるさいな」
カゲの唇を小指でチャック。喋る権利をジャック。
「……」
「お熱いようでなにより、そう思ってコップも一つにしておいた」
みるみる赤くなる頬。唇が恥ずかしげに歪む。
『う、うるさいとはなんだえむっ……』
カゲは前を向いて顔を隠す。
「君はまだ拗ねるべきじゃない、その前に酒を飲め、気が、楽になっていくぞ」
ブランドの言葉に誘われてコップのエスカレードに口を付け始める。
「ん、んっ」
ゴクゴクとカゲは一気に飲み干した。
『エムの分はない!』
「よく言ったな、それで主導権を握れ、窮地に立たせろ」
「ふんっ!」
ぷいっとそっぽを向くと空っぽのコップを俺に押し付けてきた。




