再戦
『…………』
返す言葉が思いつかなかった。
良く言うとクレアを守る為にドラゴンの右目を潰して失くした。
ドラゴンに敗れてクレアを危険に晒した事実は許されない。
『言えないような理由があるの?』
何も言えなかった。
「ろくでもない理由でギルドメンバーが傷つけられて、剣を紛失したって言うの?」
カッカッと近づいたシンスが手を上げ、パチリと音が鳴る。
有無を言わさないビンタによろけた。
『もうよせ』
間に入ってきたコノハが二発目を庇ってくれた。
「傷だらけで帰ってきたと思えば、あげた剣を捨ててきたなんて許せる?」
「古ぼけた剣でここの門を叩いた男、剣を置いていくにはそれなりの理由があったはずだ、なあ?」
コノハの問いに頷く。
「……コノハって男に優しかったっけ?」
「当たり前の話をしている」
「そう」
シンスは興味なさそうに話を切った。
「さっさと消えて、早く」
手の動きに従ってギルドから出る。
シンスの機嫌がめちゃくちゃ悪かった。
大金を稼がなければいけない。
悲しい事にお金はシンスに没収されている。
ピッケル戦術は使えない。
剣を手に入れなければ、戦闘で稼いで誤魔化すこともできない。
仕方ない。
もう一度、青いドラゴンと会って剣を取り戻そう。
クエストワークに向かった俺は依頼を眺めた。
青いドラゴンの依頼がまだ貼られている。
それもそうだ、人員は無限に欲しいだろう。
『お前、強いだろ』
声を掛けられて振り向くと若い男が居た。
その後ろには冒険者が二人居る。
「……なぜ?」
「鎧の傷だ、歴戦をくぐり抜けてきたのは容易に分かる」
全部、大トカゲと転んだ傷なんだが。
「こいつ、剣が鞘にねえぞ」
「む、たしかに」
「こんな奴誘ったら、青いドラゴンなんて倒せねえぞ」
青いドラゴンに行くのか。
『バカには見えない剣なんだ』
見栄を張って参加しなければ!
「なんだと?」
「バカだと証明されたな、そこの女、この剣が見えるか」
忙しそうな知らない奴に声を掛け、聞いてみる。
『見えるけど』
急いでいるのか、生返事でクエストワークを出ていく。
「ま、まじ?」
「見える、見える! この剣は凄いやつ!」
「え、お前見えるの? ええ……?」
誘ってきた本人は見えるようになったらしい。
「よし、青いドラゴン倒しに行くぜ!」
適当に突き出された拳を合わせてみる。
「マジで意味わかんねえよ……!」
パーティに馴染んだ俺は話を聞きながら草原に向かった。
誘ってきた奴はアクト。
剣が見えないバカはレスト。
何も言わない女の子はメア。
「青いドラゴンについて、何を知っている?」
草原を走りながら聞いてみる。
「知らない」
「知らない」
あの強さを知らないらしい。
「そうか、生半可な覚悟じゃ死ぬぞ」
「……金があれば、メアの喉が治るんだよ」
それを聞いたメアの頬が微かに赤くなる。
三人は幼馴染だと最初に聞いていた。
「治ると、いいな」
ドラゴンの場所に着いた時には、周囲の戦士が蹴散らされ、動かない山が築かれていた。
四人で相手にしなければいけない。
「メア! 魔法でアクトとリュウキを空に!」
風の魔法に誘われ、体が打ち上げられる。
「見えない剣の力、見せてくれよ!」
ドラゴンの叫びを受けながら、鱗の背中にしがみつく。
「ぐああ!」
「レスト!」
暴れたドラゴンの翼に仰がれたレストが吹き飛んでいく。
俺はドラゴンの顔に近づいて右手の剣を。
取ろうとしたら一瞬で振り落とされてしまった。
巨大な足に踏まれそうになり、横に転がって逃げる。
「よくもレストを!」
アクトが胸元に隠していた短剣を抜くと両手で振り下ろす。
右手を自由にして背中の剣を抜き、その場で立ち上がる。
「メア! 力を貸してくれ!」
女の子の魔法が剣と交わり、燃え立つ怒りに姿を変える。
『うおおお!』
不安定な姿勢で繰り出される炎撃。
ブオンと空気を燃やした一撃はドラゴンを叫ばせるには充分だった。
「うわっ」
それはドラゴンを怒らせるにも充分だった。
揺さぶられたアクトが耐えきれずにドラゴンから落下する。
『ガアア!』
蹴られたアクトが遠くに飛ばされ、横で見ていた俺の目の前で燃えていた剣が転がった。
何も言わないメアが震えている。
あまりにも早い壊滅。
俺は剣を拾い、ドラゴンに攻撃を仕掛ける。
『ガ!』
振り向かれても剣を振り下ろした。
鈍い音と共に攻撃が硬い頭部に無効化される。
そのまま顔を振り上げ、突き飛ばされた。
仰け反って堪えた俺に振り払われる爪。
寸前で防ぐと俺の手から剣が消え。
左を見ると遠くに剣が転がっていた。
ど、どうやって勝てばいい?
悪くないのはメアが逃げれたということ。
ジリジリ近づいてくるドラゴン。
下がる、下がる、下がる。
不意に後ろへ体が引っ張られた。
やらかした。
ここでつまづいたら本当に殺される。
手を伸ばして踏ん張っていると視界から指先が消え始めた。
『影に身を委ねよ』




