危ないのは誰?
一撃でオオトカゲを斬り伏せた俺は素早く剣を鞘に隠す!
この瞬間、僅か数秒。当たり前。
『エムがかっこいい!』
「当たり前だろ」
「……ん?」
カゲが不思議そうな顔をする。
「どうしたんだ?」
「あげた剣のリーチなら首から真っ二つになってもおかしくないぞ、エム」
「右手の力が足りなかったんだ」
「エム、剣を見せろ」
不思議から不満を膨らませてしまった。
「それは無理だ」
「なにゆえ」
近づく顔は唇が触れてしまいそうな距離。
「血だらけで生臭くなった剣を抜くなんて嫌だぞ、そりゃあ」
「それでも構わぬ」
「勘弁してくれ、そんなに好きな匂いじゃないんだ」
見逃せ、頼む!
「……ん」
カゲが人差し指を口に当てる。
「ん?」
『キスしてくれたら、見逃そう』
心を透かされている気がした。
「なんだと」
してくれないのかと、パチパチ聞こえてきそうになる。
「見逃さないぞ、エム」
「それは困る」
急いでカゲの期待に答えた。
「……見逃す」
見逃してくれたらしい。
「それはよかった」
トカゲのしっぽだけ切って次の大きなトカゲを探しに行く。
「そういえば」
カゲが思い出したように俺を見た。
「なんだ?」
「新しい手があるなら抱っこもできる!」
「帰りにしてくれ」
ムッと唇が丸まる。分かりやすい。
「……ふんっ」
不満そうにそっぽを向きつつ握る手だけは離れない。
他所を向いたまま。これは好都合だった。
トカゲの為に剣を抜いてもすぐ戻せばバレない。
それが注視もなければバレないようなもの。
実際、バレなかった。
「よし、しっぽ切るか!」
しっぽは証拠送り。
「よし、次行くか!」
「もうダメ!」
カゲに後ろから抑えられて止まる。
「なんだ?」
「トカゲはもう終わり!」
「これで終わったら報酬激減だぞ」
「トカゲにばかり構って……カゲも構えっ」
キリキリと物理的に締め付けられる。
「トカゲにして欲しそうな顔をしてたじゃないか、それに構ってるぞ」
「他所を向いても何もしてくれないのは構っているのか……?」
確かに。不機嫌を良いことに誤魔化しに使っていた。
なんとなく、カゲの視線が刺さる。
「帰るか」
「うむ」
手を広げてスタンバイを決め込むカゲを両手に収めて、来た道を引き返す。
「カゲを見ろ」
視界を邪魔してくるカゲ。
「危ない」
「危なくない!」
右を向けば右にお邪魔し、左を向けば左に。
「危ないぞ?」
「危ないのはエムだけで良い!」
左に顔を向けると乗り出してきたカゲの頭を垂れた枝葉がカサカサ撫でる。
『わっ』
「危ないって言っただろ」
「……」
反省してくれたのか、ぴったりと身を寄せると邪魔してこなくなった。




