策が溺れる
なあなあに誤魔化すというのは難しい。
『コノハは失くしたって……まさか! 盗んだってわけ!?』
「ち、違う!」
助けてくれミスト!
「ふぇいふぇい」
ダメだ! 使えない!
「なんか腹立つわ! やっぱり昨日のは酒の先ってことでなし!」
「それだけはどうか、どうか」
「……じゃあ、あなたのことを物陰からジロジロ見てる貴女をどうかしてくれる? 目障りで、仕方ない」
振り返るとヒュッと建物の支柱に隠れる顔。
長い銀髪がワンテンポ遅れて逃げ込んでいく。
「ああ、分かった」
俺は支柱の裏を見に行った。
こんな狭い支柱を盾に完璧に俺の視界から失せてくる。
右を覗いても銀髪、左を覗くと見せかけて右!
やっぱり銀髪。
「いるのは分かってるぞ、ミトラ」
「ごめん……目障りなら……」
申し訳なさそうにひょっこり出てきた。
「正直言って、気づかなかった」
俺が一歩近づくとミトラも下がる。
ヒュッとだらしなく垂れていた両手が後ろに隠れる。
「き、嫌いとか、そんなんじゃ、なくて」
「そうだろうな」
『もう二度と手を繋がなくても、良いから』
逆に空いていた距離が詰められる。
『ミトラと仲良く、してください』
うつむき加減なのに、俺のことを確かに捉えて見つめてくる。
「なら安心だな! ……と思うか!」
「うっ」
「あの時の顔を俺は知ってるぞ、笑ってたからな」
「それは、それはぁ……」
歯切れ悪く言葉を濁すミトラ。
「言ってみろ」
「好きな人の手をようやく握れたのが嬉しくて、にへへって……」
赤くなった頬を隠して左右に銀髪を揺らしていた。
リドルが「真実っぽい!」と妙に味方をしている。
「今も嬉しいのか?」
「嬉しい」
笑い慣れていないのか、首を傾げてニタニタ。
確かにあの時の笑い方。
「じゃああの能力はなんだ」
「分からない、だけどそれでみんなに嫌われてて」
確かに美女の輪から浮いている気がした。
それはオーラとかじゃなくて、単純にミトラが一際美人に見えてくる。
あまり外にも出てないのか、肌は誰よりも白い。
化粧もやり方すら知らなさそうだ。
「一応、小指の誓いをしようか」
「小指の、誓い?」
「小指と小指を交わしてやるやつだ」
「したことないな、なんて……」
不格好な指を絡めて約束事。
嘘をついたら針を飲む約束。
「ビリビリ、しない?」
「しないぞ」
「どうして?」
ミトラは不思議そうに手と手を眺める。
「その力には条件があるんじゃないか、分かれば握手できるかもしれないな!」
一回目は大丈夫だったのは確かだ!
「協力してくれる人は……」
周りを見てフッとため息をつくミトラ。
「いるわけ、ないや」
「後で手伝ってやらんでもない」
「えへへ」
そろそろ約束の時間。
ミトラと別れてシンスが手を叩く前にコノハを探す。
『ふわわあ』
眠そうにあくびをしながらテーブルに肘をついていた。
「眠そうだ」
「逆に聞きたい、なぜ眠くない?」
「これが俺の能力なんだ、知らなかったか?」
「それはそれは、随分と女々しい家庭的能力なことで」
キツい皮肉。
「温泉外出を助けた時の権利を行使したい」
「気持ちよくなりたいと?」
スッといつの間にか身を寄せられ。
「そんなんじゃない、シンスがギルドの加入試験をする」
「ほう」
「タンザとの戦いで、手加減をしてやって欲しい」
ガタリ。コノハが俺の首元を掴んできた。
『細工をしにきたつもりか? 仲間の勝利程度、お前が私からもぎ取れば良いだろう?』
「そ、そんなに怒ることか」
『手加減は大っ嫌いだ、そしてその事を本人に言っていない、違うか』
「言うわけないだろ」
『それがもっと好かん!』
パッと手は離れ、スタスタと去っていくコノハ。
「お、おい」
背中に声を掛けてみたが、交渉は決裂。
「まずいことになった」
とても、まずいことになった。




