殺し手
『よろこべー』
俺の新しい手を見て巻きついてきたようだが、そう簡単に問屋はおろしてくれない。
「ミストを起こせないだろ」
「その手がある!」
むぎゅむぎゅと睨まれた。
あるにはあるが、力加減がまだ分からない。
痛い思いはさせたくないんだが。
「せめて、この手に引っ付いてくれ」
「嫌だっ」
「そう言わずに」
カゲの肩に手を置いて掴む。
キシュンと握ってくれる手。
『いたいっ』
「わ、わるい」
急いで手を広げた。優しく掴んだつもりだった。
「痛かったぞ……!」
本当に痛かったのか、目元の光に気づく。
「まだ人に触ることはできないんだ、分かってくれ」
「撫でてくれないと許さない」
「話聞いてたか?」
手を離すわけでもなく、俺の腕に顔を隠すカゲ。
また、こいつで触れないといけないのか?
カシャンと広がった手は俺とは違う意思があるかのように。
かすかに動き続けている。
開いていても、もしかしたら感覚の違いでギュッと締め付けて、傷つけるようなことになったら。
とてもじゃないが、このままでは触れない。
『……分かった、なでなでしよう』
ギュッと握り拳を作って人差し指と中指を親指で抑え込む。
鉄拳の甲でカゲの髪を撫でた。
「冷たいが、許してくれ」
「冷たくはない……」
フルフルと髪が揺れる。
「そうか」
鉄の匂いが残らないように、フッと髪に息をかけた。
『大好きなんですね』
タンザの声にカゲがピクリと反応する。
目が合ってみるみる赤く。
「それはないっ!」
俺の手から離れると部屋を出ていってしまった。
手が痺れる、熱が冷える。
相当強くカゲに巻き付かれてしまったようだ。
「先に、ご飯と練習をしてきます」
「にゃ!」
カゲも誘ってあげてくれと伝えると頷いて行ってくれた。
俺はミストに鉄の手で頬をグリグリ押す。
握り拳だと強気に出れる!
「おきろおきろ」
『そこは、らめぇっ……!』
「何がダメなんだ? 言ってみろ」
変な夢を見ているのか、変な所を触られているとでも思っているらしい。
「む、虫歯がズキズキするから〜!」
「……」
「うえぇ、うええええ」
痛いところを突いてしまったのか、目を閉じたまま頬を抑えるミスト。
「えええ……はっ!」
ぱちぱちと目覚めて俺を見る。
「痛いよー」
「治療するんだな」
「そうする……」
「それより痛いことがあるけどな」
なにそれと、とぼけるミスト。
「酒に溺れてギルドをぶっ壊しただろ」
「そんなことしない!」
心外だとプンプン怒ってくる。覚えてないらしい。
「思うのは勝手にしてくれ、ただ、追放されたのは確かだ」
「うぇ?」
「ミスト、お前はシンスに追放されたんだ」
「うえええ!?」
そんなわけないと言い返してくる。
「そのうち知ることになる」
「本当だったら、どうやって過ごせばいいのー!」
「謝れば許してくれるかもしれない」
「本当だったら、あやまる……」
グスンと珍しく落ち込んでいた。
「リュウキと居れるなら、まあいっか!」
楽天的で羨ましい限りだ。




