ミトラれる
背筋を伸ばして手を太ももに添える姿に習って俺も真似をする。
『ゆっくりしてください』
「大丈夫だ、それより俺の隣に来たには理由が?」
「特に」
そう言って首を横に振られるとポニーテールがゆさゆさ。
長い沈黙は毒にも薬にもならない。
「そもそも、ホウセンカではどんな役割を?」
「何もしてないです」
また沈黙。
クレアの家を訪ねた時、姉がいる雰囲気はなかった。
そもそもクレア以外の人間が住んでる様子もなかった。
「どこに住んでいる?」
「妹のお家です」
また会釈。
「入ったことはあるが、本当に住んでいるのか?」
「夜だけ、こっそりお邪魔してます」
リドルとトランプをした時は来てなかったが。
怪しい。めちゃくちゃ怪しい。
「そうか」
「握手しませんか」
なんとなく握手を交わす。
にぎにぎと普通の握手だった。
「ベタベタするな」
ミトラの手汗が凄かったところ以外は。
「緊張しているのです」
「緊張?」
「どうしてだと思いますか?」
分からないと答える。
「私も知りません」
話している意味が、分からない。
「そうか」
この空気を変えてくれ。誰か変えてくれ。
周りを見てみるが助け舟は現れない。
『あ、来てたんだ』
振り返るとクレアが!!
「来てたぞ!」
「え、なに?」
俺はクレアを招いて不穏な空気を変えてもらうことにした。
「ギルトが壊れそうって聞いて来たんだけど」
「それは頑張って欲しいが、姉貴って居たのか!」
「えっ? 居ないよ?」
「えっ」
どういうことだとミトラを探す。
居ない。どっか行ってしまった。
「変だな」
「変なのはあんた」
「邪魔して悪かったな」
クレアを見送ってミトラを探す。
周りを見てミトラが座っていた椅子を見る。
『やっと目が合った、ね?』
「うわっ」
ミトラが居た!
「どうかした?」
手をパチンと合わせて見てくる。
なんとなく、雰囲気の変化を感じる。
「クレアは姉貴なんて居ないと言っていたぞ」
「もう覚えていません、そんなこと」
俺の視界に入り込むように身を乗り出すミトラ。
「そんなことって……」
「淫夢に身を委ねてお互いに、なかったことに」
「忘れることは弱い者がすることだ」
「私は弱い、ホウセンカのように弾けてしまいそう」
ミトラに触れようと手を伸ばす。
すっと離れていくミトラ。
「……」
『なにしてるんです?』
タンザが肩を揺らしながら現れる。走ってきたらしい。
「どうしたんだ」
「よく分からないんですが、酔いによってベロッベロなんです、そのわりにあなたを求めていて」
「まさか、カゲが?」
そうですと頷くタンザ。
「ミストは任せてください」
「あ、ああ……」
俺が立つとミトラも立っていた。
「もう一度、握手だけ」
差し出された手を握りしめる。
ビリビリとその手から流れ込む何か。
「ふふ……」
ミトラがにんまりしながら顔を近づけてくる。
ミトラが? ミトラが! ミトラが。
黒くてドス黒い瞳の中に俺の顔が反射する。
間抜けな面を晒す鏡。
段々と周りが見えなくなる。ミトラしか見えなくなる。
もしかして、これは、もしかして。
みとらみとらみとらみとらみとら。
見取られている。




