悲痛なハウル
街に戻ってきた。特に苦労はなかった。
ルビーの爪研ぎ痕は印になり、すんなりと帰路を理解することができた。
『偉いぞ、ルビー』
『にゃあ!』
街の中でこっそり離脱して手持ちの素材を金に変える。
すぐに戻るつもりだったんだが、ルビーは気づいたのか、ついて来てしまった。
「綺麗な素材だね」
買取主の言葉に頷く。
「袋一杯で買うよ」
「助かる」
ルビーもにゃすかるらしい。
「これね」
金袋を受け取ってその場を後にする。
「にゃー」
「抜け出して悪かったな」
カゲも見逃してしまうほど、自然にフェードアウトしたつもりだったんだが。
「うにゃあ!」
もう逃げたらダメだと監視されている。
すぐギルドに向かうとミストから聞いていた俺はギルドの扉を叩いてお邪魔した。
『カンパーイ』
『おほほほ、疲れた肉体に美酒が染みますゆえ』
『あらあら、一緒に食されたトカゲ肉に吸われてますけど? 証拠に美しいお酒がお肌にシミったれてますこと』
『殺すわよ』
いつも以上に騒がしい雰囲気。いつも以上に長いテーブル。
いつも以上に、にこやかなシンス。
「やっぱり、男は必要かしら」
そうでもないと首を横に振ってみる。
「いえ、必要」
シンスの赤い頬が左右に揺れる。
「来なさい」
そのまま連れられて楽しめと開放された料理劇場。
肉の付け根が紙で巻かれた片手間なチキンを手に取る。
「ルビー」
「にゃあ!」
渡してみると両手で握って大切そうに肉を頬張っていた。
「もぐもぐ、にゃまい!」
『リュウキではないか』
コノハの声に振り返る。
元気そうな様子で酒を片手に持っていた。
見慣れないアイテムがコノハの消えた腕に生えている。
「これか? ふふ、試作の腕だ」
「違和感が凄まじいな」
妙に機械チックでなんとも言えない。
「それもそうだ、これは右腕用」
なのにコノハは左腕に付けている。試作品と言っても付ける腕を間違えるのはおかしい。
「それで変に見えるわけか、動かせるのか?」
「全然、理論的には動くと聞かされてはいる」
「慣れが必要だな」
コノハが機械的な腕の指を絞って親指を立てる。
「煽ってるのか?」
「いや、これは、いつもしていることをしたつもりが……」
下を向いた親指は憎たらしい。
「なら良い」
別れてミスト達を探してみる。
見つけた、タンザとカゲは特に酒を握っていないので目立つ。
『……ぷはー!』
ミストがごくごくと飲み干したコップをタンッと叩いて粉砕する。
「「えっ」」
見ていた二人は驚いていた。
ルビーはお肉を両手に驚く二人の間に入っていく。
「にゃ?」
「どこに行ってたんですか? 心配してたんですよ」
「ごめんにゃさい!」
俺も姿を見せてみた。
「おや、居たんですね」
ちょっと悲しく思った。
「エムにはカゲが居る」
「いやあ……」
「不服か、不服なのか!」
「違う、違うぞ」
「ではもっと元気よく頷いて、して欲しいことを欲求しても、カゲは怒らないぞ?」
カゲはポンポンと膨らんだ胸元を叩いて上目なアイコンタクトを探ってくる。
酒の匂いがする、どうやら既にほろ酔いらしい。
『嫉妬心ばくはーつ!』
ドカーンとミストは叫びながら隣の料理劇場をひっくり返す!
『ちょっと!』
『誰よ! ミストに酒飲ませたやつ!』
ガシャンガシャンと割れていく皿、ベトリと散る食材。
「落ち着きましょう!」
「え、エムとの楽しい会話を、破壊するなっ……!」
近くの二人が落ち着けさせようとするが意味を成さない。
「禁止禁止! えいっ!」
パリンパリンキャーキャーの好き放題。
不意にミストが床に手を添える。
「や、やばい! カゲタンザ、早く逃げろ!」
「えっ?」
周囲の美女も事態に気づく。もう遅い。
『ふぃーるどそーど』
ズバリと引き抜けた床は振り上げられると同時に直線状の天井と家具を破壊し尽くし、壁に風穴をぶちあける。
『ちょっとちょっとちょっっとおおお!!!』
シンスが聞いたこともないような叫びを上げていた。




