ツンツンモード
無意識に両手で穴の壁に手を向け、衝撃に備えた。
……片手しかないのに。
見上げると知らない男が一人で俺達を見下ろす。
『この罠で最も簡単に命を奪う方法を考えていたんだ』
ジャンプしてギリギリ届く高さの穴に蹴落とされたが、そもそも這い上がろうとして見過ごしてくれるとは思えない。
「結論として、火が最適解だった」
こんな狭いところに炎なんて置かれたら、一巻の終わりだ。
「さあ、死ぬ準備はいいか」
「待て!!」
俺は大きな声で男の注意を引く。
「なんだ?」
『お前それでいいのか?』
「あ?」
「燃やすなんて単略的な答えで本当に良いのかと聞いているんだ」
「いや、何を言って……」
「燃やしたら物が残らない、すなわちメリットがない。なら? 殺す価値がない、そうだろ?」
男が気づいたように向けていた手を下ろす。
「何も取れないのはダメだわ……」
『ミスト』
合図が届いたのか、ミストはこの隙にニヤリと笑い、俺の頬にキスをした。
「違う、ここはさっきの能力を使うとか」
「えへへ……」
男は何やらブツブツ言って背を向ける。
「ほら、ミスト」
壁に背を向けて膝をつくと。
「んっ!」
俺の膝と肩を踏み台にして素早く駆け上がったミスト。
「な、出てきやがった!」
「えいー!」
バコンと響いた一撃と辛そうな断末魔が聞こえてきた。
「終わったよー」
そう言って上から見下ろしてくる。
「よし、助け」
「ただいまー」
ミストは当たり前のように穴の中に戻ってきた。
「なんで戻ってきた?」
「なんとなーく」
もう一度上がって貰えるように同じ体制を取ると足だけ肩と膝に載せてきた。
香水の匂いは息を止めてシャットアウト。
「……局部を押し付けるセクハラをしているのか?」
「ち、違うよー」
しかしミストは上がらない。
「ミスト、はっきり言おう」
「うん……」
『めちゃくちゃ、重い』
「そ、そんな」
ミストは俺から降りるとお腹周りのラインを確認していた。
「重すぎる」
リドルに『女子に重いは死刑!』って警告されるが気にしない。
確かに、ミストは重いのだ。
「お、おもい……」
深刻そうな口ぶりで落ち込んでいた。
「遊びが洒落にならん」
漬け物にされる前に一足早く、穴から脱出する。
「帰るぞ」
手を伸ばしてミストを待つ。
跳ねて俺の手を握ろうとする姿に俺は手を引っ込めた。
「マジで落ちる」
「み、ミストはここで暮らす! うわーん!」
「やめてくれ、居なくなったら俺が質問攻めされる」
「……質問攻めされちゃえ!」
ミストがツンツンモードに入ってしまった。リドルがだから言ったのにって笑ってくる。
「こんな所で暮らされたら心配するだろ」
「し、しんぱい……」
振り向いてくれた、手応えを感じる。この調子で説得だ。
『ここは水源も何もないからな、暮らすなら洞窟の近くがいい、紹介しよう』
『大っ嫌い……』
ミストはゴロンと穴の中で寝る体勢を取ってしまった。




