タンス暮らし
嘘だろって思いたい。
肩に添えられた力で動きが殺され、背中に回った手でそれっぽく引き寄せられている。
『えむ……』
「離れれないんだ、どうしても」
ぐすんと涙ぐむ音が聞こえる。
「はい、チュー」
ミストと俺の間にクレアの手が差し込む。
『はいはい、もういいから』
「えー」
「キスが恋愛の全てじゃないし」
「それは、そうだけどー」
ミストはクレアに言われて俺を解放してくれた。
「じゃ、忙しいから」
スタスタ去っていくクレアの後を、カタカタ音が追っていく。
「もう少しだったんだけどなあ」
「……どうして居ることがわかった?」
俺はカゲが居ることに気づけてなかった。
気づいていたら距離を取って保険をかけている。
「武器を作りに行く話はこそこそ聞いてた!」
「聞いてたって、それだけか?」
「クレアが一番良い武器を作れるよ? 仲も良さげだしー」
クレアの近くに居る可能性は高いと踏んでいたらしい。その視点は俺から見ても盲点。
「すごいな」
「ふふふー」
誇らしげに張られた胸がプルンと跳ねる。
「頭使ったら休憩きゅうけーい」
ミストに手を引かれて入ったことのない部屋に連れていかれた。
「ここはミストのお部屋だよー」
ベッドとタンス一つ置かれた簡単な部屋。
これが本当にミストの部屋なのか、怪しい。
「う、嘘じゃないよー」
嘘ではないといいつつ、タンスの中に足を踏み入れるミスト。
「部屋の持ち主がタンスで寝るなんてありえないな」
不意にドア側で足音が聞こえた。
「は、早くっ」
ミストに言われてタンスに入る。同時にドアがガチャり。
「……あぶなーい」
小声でミストがポツリ。
足音は左右に動き、ベッドにドシンと座っていた。
最悪だ。居心地が良いわけじゃない。
「声出したら、ダメなんだよ?」
逃げれない状況を良いことに、ミストに好き勝手されている。
「チューしよ、チューー」
変にいやらしいおっさんかよって思いながら、尖った唇に人差し指で抵抗する。柔らかい。
「や、やめてくれ」
「……でも、寝るのは本当だよ」
首元に手が回り、強く抱きしめられる。
「おやすー」
そのまま全体重を預けてくる迷惑なミスト。
このまま寝れるなんてどうかしてる。
バレたらどうするんだ?
「……」
ミストが本気で寝ているということを認めなければいけない。
長い時間に目を逸らして、掛けられた服を眺める。
部屋に反して贅沢そうな服。
これを着ている人はさぞかし、美しいんだろう。
少なくとも、赤を身に纏える勇気がある美女ってことだった。




