二者択一
怪物に襲われかけてるんじゃないか? そんな気がしてきた。
片手で取っ組み合いができる訳でもない。
『逃げるのは、しないで……』
足の速さとは対照的に、ミストは俺の手を握ってくるだけだった。
「悪かった」
女性に対して逃走というのは失礼極まりなかった。
「また、逃げられるのかなあって」
何か嫌なことがミストにあったのかもしれない。
「逃げられる? そんなものが生えてきたからか?」
「キモチワルイ、近づかないで、とか……これのせいで」
大きな胸を見せつけるように揉むとポツリと呟いた。
『おっぱいは隠せないけど下半身は隠せるから、女の子になったんだよ』
ミストも苦労しているらしい。
「そんな隠し物を俺に見せたのか?」
「男なら逃げないかなって」
逃げるほどではなかった、逃げたが。
「俺は何も察せなかった」
「戻ろ、もう怒ってなーい」
ギルド内のテーブルの一つを借りることにした。
円形のテーブルに向かい合って座る所を、椅子をずらしてまで隣に持ってくる。
「そんなにこだわるか?」
「隣の方が近くて好き」
とりあえず酒を飲むかと手を伸ばしてミストに止められる。
「飲みたくなるから飲まないで」
「飲めばいいじゃないか、匂いもしない」
「飲んだらコップ壊しちゃう、次から自腹なんだよー」
そんな隣で飲むのは可哀想なのでやめておく。
「……久しぶりの活動に体が追いつかないな」
なんとなく、俺自身の動きがワンテンポ遅い。
「お手伝いしたいなあ」
「ミストは何ができるんだ?」
「ふふふー、リュウキより大きな剣を持てる」
そんな力があれば、コップが壊れるわけだ。
「随分と男勝りだな」
不意にミストと目が合う。
「……あっ」
ミストは足を微かに広げて窮屈そうにする。
「どうしたんだ?」
「大きくなってきた」
「ああ、理由もなく成る時もある、それは仕方のないことだ」
避けようがない人間としての仕組み。抗えない。
「理由は分かってるよ……」
「そうなのか」
「そ、それより! 収め方知りたい」
「無理だ、諦めてくれ」
「も、もうだめ」
そう言ってスカートの中に手を入れると花柄の下着を引っ張ってきた。
「こういう時に窮屈だから履かないのに……」
「悪かったな」
「はい、これ」
足から離れた下着を当たり前のように渡してくるミストに流され、受け取ってポケットに収めてしまった。
「……おい」
「お、おさまれー」
「なんで渡してきた?」
「ひ、ひ、ふー」
「出してすっきりしようとするな」
ポケットから出してミストに返そうとするが、美女が近づいてきてリスクが迫る。
……返却はやめておこう。
「おさまったー」
「よかったな」
結構な危機だったのか、ミストは胸を撫で下ろしていた。




