棒に振る
『ぷんぷんしてる……』
水瓶片手に帰っていると、ミストがひょっこり覗き込んでくる。
ぶつかりそうになって横に逃げた。
「どうせ切れていた」
あの魚はきっと大物で、素人には挽回できなかった。
「お腹が痛かったから……お腹だけに、腹いせに邪魔しちゃった」
「生で食うなって学べてよかったな」
「生がいーい!」
「もう一度腹を痛めるべきだな」
街に戻って周りを確認しておく。
「どうしたのー?」
「怒るやつが居るからな」
常に険しい顔を作りながらギルドに戻ってきた。
暇そうなコノハに聞いてみる。
この魚は生まで食えるか?って。
『安心していい』
「味の方は?」
「甘みが強い」
コノハの言葉を信じることにする。
「ん? なぜミストがリュウキの後ろに居る?」
「一緒に釣りをしてきたんだ」
ミストがにこやかに横に並んできた。
「あんなことやこんなこともしてきたよー、ねー」
すぼめて近づいてくる唇を人差し指で止める。
「くたばれ嘘つき」
「お胸触ったくせにっ!」
「大きな声で言うな言うな」
「おっぱい触ったのにーー!」
ああっ、最悪だ!
「リュウキ、触ったのか?」
「無理にはしていない、同意は得て少々……」
周りの美女の視線がグサグサ来る!
「揉み揉みしたくせにーきゃー」
わざとらしく両手で顔を隠して恥ずかしそうな素振りをする。
「揉んではない」
この場にクレアがいないことが幸いだ。
カゲと仲が良さそうだから、チクられてもおかしくない。
「リュウキには失望した、そんな奴だったとは」
コノハがミストの誇張を信じてしまった。
「嘘だろ」
「同意を得たからと、触っていいルールはない」
少し、話がズレている気がした。
「……そうだな」
言わないことにする。
「ミストも許可なんて出すべきじゃない」
「触って驚いたら負けってゲームのつもりだったんだけどなあー」
「ゲームだからと……」
「もしかして! コノハはうらやましいのー?」
「そんなわけ、ないだろう!? そんなわけ……ないだろう!」
二回連続で言うと早足で離れていってしまった。
「へんなの、素直に言えばいいのにー」
「いや、俺も悪かった、触るべきじゃなかった」
「触っていいよ」
手で掬うように胸を持ち上げて自慢してくる。
「むにむにーって」
「やめておく、俺にもプライドはある」
美女に何言われるか分からない。
シンスの耳に入って追放でもされたらどうするんだ、まだ追放はされたくない。
「……ふーん」
「なんだその顔は」
ミストは綺麗な唇を尖らせて背伸び。
身長が逆転、ドヤりと見下してくる。
「いつまでそう言ってられるか、みものだねー?」
「逆にミストはどうなんだ? 貞操を棒に振るような真似してるんだぞ?」
「棒ならここにぃ……」
腰を左右に捻って話を逸らしてくる。
「そうだな、もう会えないことを願うよ」
「にげないでー」
ひとまずギルドを出て、ドアを開けた時の死角に隠れる。
遅れてカチャカチャとドアが開いた。
本気で走ったつもりなんだが、ミストは胸に左右されない速さがあるらしい。
ドアを閉めて周りをチラチラ見て、死角にいる俺と目が合った。
『みーっけ』




