大嘘
途中で水瓶を買って草原の水溜まりに近づいた。
木をくり抜いて作られた頼りない物だが、そもそも魚が釣れるとは限らない。
『あ、餌忘れたわ』
やらかした気がする。
「疑似餌がついてるよー」
「ギジだって?」
「細長くて気持ち悪い餌にコロッと騙されるんだって」
針の近くに生えているこの芋虫っぽいのが餌らしい。
ダメだったら本物の虫を探そう。
とりあえず竿を振って祈ることにした。
「リュウキ」
ミストが擦り寄ってくる。
「あまり来るんじゃない」
「女の子なんだよ? そんなの、かなしい」
「嫌いとかではないが、可能性に対する自衛だ」
事実上の女の子と言えば聞こえはいいが、逆にそれが致命的だったりする。
上下に震える浮きを合図に竿を上げ、魚を釣る。
「本当に釣れるんだな」
生臭い魚を太ももで挟んで口元の針を抜いた。
「いいなあ……」
「そんなに食いたいのか?」
「ち、違うよ」
竿を振って二匹目を狙う。
「……やっぱり食べたい」
「最初からそのつもりだろ」
「ふふふー」
「これで下処理して食え」
魚の種類は分からないが、多分食えるんだろう。
短剣を渡して捌くことを任せた。
「おさしみーあじしみ、しみじみー」
口ずさみながら処理された魚。白身を一口サイズに切りながらパクパク食べていた。
「うまいか?」
指先で口元を隠してコクリと頷く。ミストの耳にかかっていた髪がフワリと前に垂れる。
「食べてー」
「やめておく」
「だーめー」
切り身を強引に押し込まれて仕方なく食べる。
少し臭いが、歯応えはとても良い。味はそんなにしない。
「悪くないな」
次に釣り上げた魚をミストに外してもらい、水瓶に投げ込む。
さて次!
「ううっ……」
「急に唸ってどうしたんだ?」
「おなかいたいよー」
ペタンと座り込んでいたミストは食べることをやめ、お腹を両手で温めていた。
「……俺も痛いな」
間違いなく、魚が原因だ。
「いたーい、いたーーい!」
毒みたいな魚を半分も食べたら、そりゃ痛いだろうな。
歯を食いしばって揺れる様はどうしようもない。
「いたーーーーい」
「うるさいぞ、静かに痛がれないのか?」
「お腹触ってくれたら、治るかもー」
服を捲って見せてくれる細い腹に手を添える。
竿は足で抑えている。
「ふー、ふー、いたい」
「息をかけてくるな」
「このまま上に指を進めて」
「どうせ、アレだろ」
「ふふふ、驚くよー」
「驚かなかったら暴露するからな」
「驚いたら、可愛がってね」
かわいい顔をされても騙されないぞ!
「驚くわけ」
なんでそんなことをしなければ行けないんだと、セクハラ上等の胸触り。
中指に触れる柔らかい存在に息が止まる。
「なっ……」
「ねー」
「胸があるだと」
俺は男の物があるなら、全てが男だと思っていた。
しかし、よく見るとミストの胸は膨らんでいる!
盲点だった。女の胸はいつ見ても明らかなのに、認識できていなかった。
理解が足りない自分にも驚く。
思考がミストに操られていたような。
「本当は元々女でー、魔力に侵された時にニョキニョキって生えたんだー」
にょきにょきって腰周りを強調してくる。
「にょーきにょーき」
「それなら、大きさも頷ける」
「ほんとーだよー」
言いふらす手段はもう脅しに使えないってことか!
「驚いたから、ミストのことかわいがって」
「もう腹は大丈夫なのか?」
「……い、痛いの思い出したー」
雪崩のように倒れ込んでくるミストを体で受け止める。
「やりにくいんだが」
沈んだ浮きを引き上げ、釣り上げようと魚とバトル。
「みすとあたっく!」
押し倒され、加算された無理な引っ張りに竿の糸が切れてしまった!
「あ、やってくれたな」
「めんごー」
「……」
「ごめんなさーい!」
切れた糸の代わりは伸ばせばあるが、針は帰ってこない。
「帰る」
竿を片手サイズに収納してポケットに収めた。
そのうち、リベンジしよう。




