フィッシングラブ
『し、しないでくだしゃい!』
「じゃあ女物を履け、みっともない」
「履くのでそれだけはぁ〜」
ミストはどこからか花柄の下着を取り出すと足を通し始めた。
「ギュウギュウで、ミチミチで、うう、苦しーよう」
キュッと引き上げ、わざとらしく震えている。
「随分と、用意周到だな」
「ぐ、ぐーぜん!」
この秘密があれば、憂い目に合わされることはもうなくなる。
「そもそも、なんで女になったんだ?」
「ホウセンカは男にキツイから、女の子になっちゃった」
軽々しい転身はミストの凄いところかもしれない。
「凄いな」
「もう凄くないよ、リュウキにバレてこんなにも」
下着からはみ出る存在に言うことはない。
「バラしたんだろ」
「うん」
嫌な気はしない。そもそも、己自身が変態だ。
同族嫌悪はどうかしてる。
「……いや、バカとしか思えん」
「ひどいっ、女の子にそんなこと言うなんて」
ミストは目を隠して泣き真似をする。
「えーんえーん」
「嘘つけ」
「バレちゃった」
こんな奴と一緒にいると、気が狂いそうになる。
……気が狂う。何度も言われた言葉。
「変だな」
「変だよーすごく変」
「自覚はしているようで――」
ガチャリ。不意に鳴ったドア。
ミストがスカートを下ろして隠すように前へ屈んだ。
『あら、ミスト? こいつに何か用が?』
ドアから出てきたシンスの問いにミストは何度も頷く。
「リュウキの方は? 隠し事してそうね?」
「…………」
シンスの後ろで潜むミストが不安そうに見てくる。
俺をチラチラ見ている瞬間は完全に挙動不審。
シンスが振り返ったら、質問攻めにされてもおかしくない。
「まさか、本当にしてるわけ?」
「シンス様を引き止めたかった」
「いいこと言うじゃない! 頑張りなさい!」
思った以上に好意的に捉えられ、俺の肩を叩いて横切って行った。
「い、言わないんだー?」
それでも言われると思っていたのか、ミストの声は震えている。
「言うのはまだ惜しい」
「ふーん……」
嫌そうな顔をしないところが怖い、気味が悪い。
「頼みたいことがある」
「……」
「言いふらすぞ」
「するする!」
ギルドはアイテムを保管する倉庫があったりする。
「釣竿を借りてきてくれ」
「む、むりだよー」
「厳重ってことはありえないはずだが」
「個人的に使う時はちゃんとお金払わないと……」
「払ってこい」
「そんなあ! サボってるから取り分が、少なくてぇ」
萎んだ皮袋を自慢してくるミスト。秘密をバラしたやつが悪い。
「ばらすぞー」
「うう……」
それからしばらくしてミストが釣竿片手に戻ってきた。
「お金が〜」
「いくらだった?」
これくらい。と言って親指と人差し指を近づけて教えてくれた。
「助かった」
俺はお金をミストに渡した、これはお礼だ。
「最初から欲しかったなあ……」
「ギルドでご飯でも食べてるといい」
「お魚釣り?」
「そうだぞ」
機嫌は金だけではなく、物でも取れることを思い出したんだ。
「い、行きたいな」
「釣れるとは限らないぞ」
受け取った釣竿の糸が左右に揺れる。
利き手じゃないほうの片手で竿を持つことにまだ慣れない。
「……大漁だねー」
「まだ一歩も動いてないが?」
『ミストアンドイート!』
ふらふらーと近寄ってきたミストから距離を取った。
「そうだな」
「じゃあ……!」
「俺もリリースなんてエゴ平和主義は嫌いなんだが、イートするのは美味しい魚だと決めている」
そもそも、食う為に釣るからな。
「ミスト、お前はリリースだ。俺から離れろ」
「ひ、ひどいっ!」




