猫の手も借りたい
『添い寝、ハグ、何でもできる』
「それはカゲがしたいことだろ」
「……うむ」
したいことらしい。コクリと頷かれた。
「言いにくいんだが、剣が欲しい」
「ふむふむ」
「黒い剣はとても使い心地が良かったが、もう二度と繊細に使うことはできない、問題はそんな剣が多いことなんだ」
利き手以外で剣を扱うこと自体がないからな。
「では、どうしろと」
「見た目は前のままで、重い剣を用意してくれないか?」
狙って斬るより全てを叩き斬る方が楽だ。
「……任せろ!」
カゲはタッタッと近くの小窓を割って飛び降りていった。
『ちょっと! なにしやがってるの!』
部屋の隅からカゲの犯行を見ていた女性が窓から身を乗り出して追うことを諦める。
「……あれはあなたの連れ?」
「そうだが」
「常識を教えなさいそして! 今日の料理はあなたにしてもらいます!」
「なんだと……」
「私は、この窓をどうにかしなくてはいけませんこと、おほほ、おほほほ」
カゲめ、面倒なことをしてくれたな。
俺は逃げるようにその場を後にする。
ドアの先はいつもの美女達の溜まり場。
『仲間は鍛錬を積んでいるらしいぞ?』
声に振り返るとコノハが居た、どうやらドアの近くで待っていたらしい。
「そうなのか」
「言いたくはないが、言いたい」
「なんだ」
「似たもの同士、ここは話に洒落こもう」
「はっ、皮肉だな」
近くのテーブルで酒を入れ合い、コップを染める。
「シンスは大金を使って腕を作っているらしい」
コノハの話は面白そうなのでコップではなく耳を傾ける。
「腕?」
「機械的な腕で腕を無くす前に戻れると」
「愛されてるな」
「使えそうなら、リュウキにもあげよう」
なくなったものを簡単に補えるようになったら、戦う人間が増えるかもな。
「好きじゃないな」
「もちろん」
「そうなのか?」
「腕を付けたら、外出を許してくれると信じているだけだ」
「過保護だな」
温泉のおかげで光を返せそうな肌というのに、もったいない。
「そこのほうが困っている……」
「そろそろ、料理を作らないと」
「リュウキが?」
「そうだ、調理場はどこだ?」
コノハにあちらだと指された方向のドアに入る。
中では数人の美女が忙しなく働いていた。
『誰?』
「女の人に作りなさいって言われたんだ」
「おそいとおもってたら……まったく! 野菜切って!」
案内され、まな板の上に乗った野菜達と目を合わせる。
「これして!」
「あ、ああ……」
リドルに目で困ってることを伝える。
「そっか、左手しかないもんね」
そう言ってリドルは野菜を手で教えてくれた。
猫の手とは程遠い、手のひらでゴリ押し。
「危ない」
「大丈夫、幽霊だから」
刃をゆっくり当てるとリドルの手を貫通する。
そのままサクサクと歪に切った。
右手でするより、やりやすいな。
この調子でザクザク、ザクザク。
「終わったぞ」
「早い! 次は……お肉も!」
来たお肉は筋があるやつで、教えて貰ったことを生かし、スジを取って切る。
リドルのおかげで怪我の心配を度外視できるのは、精神的に余裕があった。
「すごい……」
「スジが残っていたら、すまない」
「片手なのに? ええっ」
混ぜることを手伝い、味付けも一緒に確認した。
「これでどうです!」
他の美女は文句ないらしい。俺も文句ない。
「俺もこれが良いと思う」
「ね!」
他人と作ることは楽しいと知る。
「喜んで貰えるといいな」
調理場を出てフラフラ歩いていると、タンザが訪ねてきた。
「にゃー」
タンザの背中からひょっこり姿を見せるルビー。
「元気になりましたか!」
「ああ」
「早かったですね」
「腕は上達したのか?」
「はい!」
そう言って腕を叩くタンザの誇らしげな表情。
「確かに、がっちりしているな」




