ツケ
双眸→左右両方のひとみ、両目
『とにかく、お金を置いたら用はないから』
シッシとされるが諦めない。
「あなたと話がしたい」
大きな一歩で距離を詰める。
「あまり近づかないで」
「どうして?」
近くで見るとシンスは綺麗だった。
「ダメダメ、来ないで」
それでも近づくと胸ぐらを掴んで引き寄せられ、強引に唇を奪われた。
突然の出来事に身を引こうとして引き込まれる。
「ろくな男が居ないから、処理できるモノもできてないのよ!」
俺を押し飛ばすと踵を返してしとやかに去っていった。
「……」
美女にざわざわ言われまくった間にコノハ達はギルドを出ていったらしい。
するべきことはした、つもりだ。
「嬉しい顔したらまた怒られるよ」
リドルの言葉で頬を叩いてからギルドを出た。
『エム』
「げっ」
『一部始終を、見ていた』
目の前で両手を広げて立ち塞がるカゲ。
「浮気者め」
きつく睨まれ、来いと指示されてしまった。
「カゲは怒っている!」
「悪かった」
こんな至近距離で叱責されるとくるものがある。
「お、怒っている! エムが浮気した故に!」
「浮気をしたつもりは」
「謝れっ!」
「すまなかった……」
「謝って済めば剣は要らない!」
カゲの理不尽ムーブに振り回される。
「どうすれば、許してもらえる?」
「ふん、嫌いだエムなんか」
そう言い残して一足早く行ってしまった。
「かわいそーに」
含みを持たせるような口振りでリドルが煽ってくる。
「幽霊と付き合っちゃう?」
「それはない」
「がーん」
宿に戻って部屋に入ってみるとタンザが俺に気づいた。
『やっぱり、帰ってきたじゃないですか』
カゲと何やら賭け事をしていたのかもしれない。
「ふん……」
状況はよろしくないが、タンザに修行をさせたい。
「早速、草原の方に走りたいが」
「はい!」
「にゃー!」
ルビーも乗り気で近づいてくれた。
「……」
カゲは乗り気じゃないみたいだ。
「カゲも、来てくれると嬉しいな」
何も言い返してくれなかった。
それでも宿を後にするとついてきてくれた。
腹ごしらえをしてから草原に足を踏み入れ。
『本当は、動くことが嫌いです』
「好きな人間は少ない」
それでも頑張れる人間が凄いということ。
『したくな――』
「待て」
不意に影った草木。
ドシンと目の前に降り立つ存在。見たことのある青き存在。
翼を広げた翼竜、欠けた双眸でギロリ。
「またか……」
倒せなかった青いドラゴン。
剣を刺されてなお、眼光は衰えていない。
こんな時に現れるなんてどうかしてる。
『タンザ、ルビー』
カゲが小さく声を出す。振り返ると三人の姿がない。
「ああ、そういうことか」
俺はカゲに嫌われているらしい。ツケが回ってきた。
「グオオオオ!」
こんなドラゴンに、貰った剣一つで立ち向かえと。
仕方なくスラリと黒剣を抜いて走り込んだ。
戦う場所は仲間と離れていれば離れているほど良い。
『この剣が壊れたら、仲直りしてくれ』




